メディアでしばしば話題になるイジメは学校だけではなく、職場など大人の世界にも存在する。どうして人は「イジメ」を行うのだろう。転職先でイジメにあったという、ある30代後半の営業企画室長のケースで解説してみたい。(ストレス・マネジメント研究者 舟木彩乃)
「イジメ」は
どうして起きるのか
世界保健機関(WHO)などによる国際的な“イジメ”の定義は「自尊心を損なわせ弱体化させることを目的とした、執念深い、冷酷な、あるいは悪意のある企てによる、長期にわたって繰り返される不快な行為」です。“不快な行為”とは、何らかの立場における強い者から弱い者への身体的・精神的な“攻撃”を指し、最近では学校だけでなく、職場でも“イジメ”の問題が大きく取り上げられています。
ヒトも含めてほとんどの生物には、自分の利益を侵害する他の個体に攻撃を加えて排除しようとするメカニズムが、生得的に備わっています。自分の地位を脅かす者や恋人に近づいてくる者を排除するための攻撃、パーソナルスペースなど自分の領域を守るための攻撃などが、これに該当します。
社会心理学的に「イジメ」を考察するときには、“集団”に焦点をあてます。
集団とは、単に街を歩く人々の群衆などとは違って、役割分担や共通の目標などがあり社会的相互作用が働いている人の集まりをいいます。集団は、所属する1人ひとりの考え方や行動を変えてしまうことがあり、ときに集団の凝集性(絆の強さ)がゆがんで高まることがあります。その代表的な例に「黒い羊効果」や「同調行動」があります。
まず事例からご紹介します。