小さなパン屋が社会を変える
『小さなパン屋が社会を変える -世界にはばたくパンの缶詰』 菅 聖子 著 ウェッジ 1400円(税別)

 本書『小さなパン屋が社会を変える』は、そんな支援の仕組みづくりに成功した、あるパン屋の取り組みを描くノンフィクションである。

 著者の菅聖子氏は、自由学園を卒業後、出版社勤務を経てフリー編集者となり、現在はライターとして活躍している。『一澤信三郎帆布物語』(朝日新書)、『子どもが幸せになる学校』(ウェッジ)など多数の著書を持つ。

 本書の“主役”であるパン屋とは、栃木県那須塩原市に本社を構える「パン・アキモト(以下、アキモト と略記)」。2代目社長(就任当時の社名は秋元ベーカリー)の秋元義彦氏は、1995年の阪神・淡路大震災への支援をきっかけに「パンの缶詰」を開発した。本書では、その経緯とともに、パンの缶詰を世界中の被災地や飢餓地域に届けるシステムをつくり上げるまでが描かれる。

 最近では、大企業がCSR(企業の社会的責任)の一環として、自社製品やサービスを被災地支援に役立てる活動を行うことは珍しくない。

 だが、当時のアキモト は、家族経営の小さなパン屋にすぎなかった。それでも世界を舞台に、自社のビジネスと社会貢献を見事に両立させることができたのは、なぜだろうか。

試行錯誤の繰り返しで完成した
3年間保存できる「パンの缶詰」

「保存できる、やわらかいパンを作ってほしい」

 アキモトの秋元義彦社長に、神戸の教会関係者から、電話でそんな依頼があった。1995年、阪神・淡路大震災からしばらくたったころのことだ。電話の主は、教会で被災者に支援物資を配っていた。

 この依頼は、次のような震災直後の出来事を踏まえてのものだった。

 大地震が起きた日、朝のニュース番組であまりの惨状を目にした秋元氏は、「自分たちにできることはないか」と考えた。

 そして、すぐに自社工場で食パンやバターロールなど2000食を焼き、1日半をかけて神戸までトラックで送り届けた。

 だが、被災地は予想以上に混乱しており、せっかくの焼きたてパンは、うまく必要とする人たちに配られなかった。やがてパンは硬くなり、カビも生える。結局、半分以上が処分されてしまったという。

 秋元氏は、じくじたる思いで、処分されたという知らせを聞いた。