国際収支は複式簿記なので、毎年の経常収支の黒字の累計は、対外資産(資本収支と外資準備)に等しくなる。また、資本取引の主体は民間であり、他方、外貨準備は政府の勘定だ。

 日本をはじめとする先進国では公的セクターと民間セクターが区別できるので外資準備の統計数字に疑義はない。しかし、中国の場合は、国営企業が多く、公的セクターと民間セクターの判別が困難で、外資準備の減少だけで人民元高への誘導を信じるのは難しい。

 そもそも、外資準備などを算出するベースの国際収支統計での誤差脱漏が中国は大きすぎる。経常収支に対する誤差脱漏の比率を見ると、中国は日本の4倍程度もある。

「国際金融のトリレンマ」
先進国は変動相場制を選択

 ただ 仮にきちんとした統計が整備されていたとしても、そもそも、為替の自由化は、資本取引が自由化されていないと、実現は難しい。中国のアキレス腱はまさにこの点だ。

 筆者は、米国が中国を為替操作国に認定したのは、資本自由化をてこに中国に本格的な構造改革を迫ろうという思惑からだと思っている。

 その鍵は、「国際金融のトリレンマ」だ。

 これは、(1)自由な資本移動、(2)固定相場制、(3)一国で独立した金融政策の3つを同時に実行することはできず、せいぜい2つしか選べないという問題だ。

 先進国の場合、2つのタイプになる。1つは日本や米国のように、(1)と(3)を優先し、為替は変動相場制を採用する国だ。もう1つはEUのようにユーロ圏内は固定相場制だが、域外に対しては変動相場制をとるやり方だ。

 いずれにしても、自由主義経済体制では、(1)自由な資本移動は必須なので、(2)固定相場制をとるか、(3)独立した金融政策をとるかの選択になり、旧西側諸国をはじめとする先進国は、固定相場制を放棄し、変動相場制を採用している。

 これに対して、中国は共産党による社会主義経済体制なので、(1)自由な資本移動は基本的に採用できない。

 もちろん実際には市場経済を導入している部分はあるのだが、基本理念は、生産手段の国有化であり、土地の公有化だ。

 外資系企業が中国国内に完全な企業を持つこと(直接投資)は許されない。必ず中国の企業と合弁会社を設立し、さらに企業内に共産党組織の設置を求められる。