隊列入り乱れた「雁行モデル」
日本は戦後の荒廃から立ち上がって奇跡的な経済成長を遂げ、世界第2の経済大国となった。また、自身が経済大国となっただけでなく、アジアの発展にも貢献したとされる。
韓国、シンガポール、台湾、香港はアジアの「四小竜」と呼ばれ、日本をも凌駕するような経済成長を遂げた。日本はこれらの国々に技術と資金を投入することにより、成長トレンドを持ち込んだ。そして、四小竜の国々の産業が高度化し、労働コストが上がってくると、労働集約型の産業は東南アジア諸国に移転され、当の日本はさらに高度な産業を作り上げようとした。
日本を起点に、韓国、シンガポール、台湾、香港、次いで、中国、東南アジア、等と成長を続ける様が、雁が隊列を作って飛ぶ様子に似ていることから、こうした産業構造は「雁行モデル」と呼ばれた。かつては、アジアの成長モデルとして教えられた。しかし、今や「雁行モデル」の存在を信じる人は少なくなっている。
日本の製品が必ずしも高度とは言えなくなっているからだ。例えば、韓国サムスンの作ったスマートフォンの性能は、日本製に勝るとも劣らない。資金面でも日本企業がアジアの企業に買収されることは珍しくなくなっている。アジアの「雁行」は今やまっすぐな隊列ではない。隊列は入り乱れ、日本はアジア経済の盟主とは言えなくなっている。
技術の波及スピードが増す
「雁行モデル」が崩れ、日本企業が追いつき追い越されるようになった第一の理由は、後を行っていたはずの国々の技術力の成長スピードが上がったことだ。その背景にあるのは、例えば、製造技術の普及だ。半導体では製造装置が販売されている。半導体メーカーの苦戦に比べ、製造装置メーカーの業績は堅調といえる。太陽電池についても製造装置が販売されている。これだけで同じ製品が作れるほど製造業は甘くないのだが、こうした分野では基本的な製造技術が相当に普及していると考えていい。