東京証券取引所Photo:Reuters

 サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコが東京証券取引所に上場すれば、国際的な金融拠点としての地位を取り戻したい日本には追い風となる。だがその一方で、他国と比較して情報開示基準の緩さが改めて意識されそうだ。

 1990年代初頭には100社を超える外国企業が東証に上場していたが、日本経済の影響力が後退するのに伴い、足元では5社にまで落ち込んだ。東京都の小池百合子知事は東京をシンガポールや上海など、アジアの国際金融都市と再び肩を並べる存在に復活させることを目指している。

 アラムコの推定企業価値は1兆ドル(約106兆円)超とされ、現在東京市場で時価総額トップのトヨタ自動車(約2130億ドル)を大きく上回る。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は29日、アラムコが2段階に分けて新規株式公開(IPO)を実施する計画と報道。年内に一部株式をサウジ国内の証券取引所に上場した後、来年または再来年に外国市場に上場する方向で、東証が海外上場先の有力候補に浮上していると伝えた。

 サウジ当局者は、東証上場を望ましい選択肢だと考えているようだ。日本は原油需要のおよそ3割をサウジに頼っており、サウジにとっては東証上場で顧客との緊密な関係をさらに強化できる。またサウジは、ソフトバンクの孫正義社長の「ビジョン・ファンド」に対する450億ドルの投資を通じて、金融面で日本と強いつながりを持っている。

 あるサウジ高官は「アジア進出というより大きなサウジの戦略に照らし合わせても理にかなう」と指摘。「リスクもより低く、ロンドンやニューヨークと同程度の情報開示を義務づけられることもないだろう」と語る。

 CLSAの株式アナリスト、ニコラス・スミス氏は、日本の政府系機関投資家がアラムコの株式取得を検討する可能性があると指摘する。「アラムコは安定した長期投資家を求めている――望ましいのは、あまりうるさくなく、すぐ訴訟に持ち込まないようなタイプだ。これは日本の投資家の特徴を非常によく言い表している」

 アラムコは4月、120億ドルの債券発行に伴う目論見書で、主要な財務情報を初めて開示した。IPOに実際に踏み切れば、石油埋蔵量や枯渇推定時期など、政治的にはあまり触れられたくない情報に投資家の関心が集まるだろう。