高齢者から免許を取り上げるのは簡単な問題ではありません高齢者から免許を取り上げるのは簡単な問題ではありません(写真はイメージです) Photo:PIXTA

高齢の母が骨折で入院
最初は「廃用症候群」を心配した

(とうとう発症しちゃったか)

 千葉県の食品会社に勤務する男性(63歳)はこの夏帰省(東北地方)した際、母親の異変に衝撃を受けた。

 患者数が最も多い認知症・アルツハイマー病だと思った。

 母は84歳。大手化粧品メーカーの訪問販売店を経営しており、自らも、現役バリバリのセールス・ウーマンとして働いている。勤続50年超の大大大ベテラン。30~50代あたりの頃は常に右肩上がりで売り上げを伸ばし続け、半期ごとに本社に招かれては表彰されていた。

 14年前に長い闘病生活の末に他界した父親は、50代前半で国家公務員を早期退職してしまったので、男性を含む兄弟3人が東京の私立大学に進学できたのは母親のお陰だ。

 既婚で子持ちの女性が外で働くことに対して、現代とは比較にならないほど、特に田舎では偏見がひどかった。周囲や親戚から散々陰口やら叱責やらをされながらも受け流し、働き抜けたことは母の誇りだ。

「お客さんが私を呼んでくださる限り、仕事は辞めません」と生涯現役宣言をしている。

 母がこんなにも前向きで、活動的でいられる理由の1つは、車の運転ができることだ。若いころに父の勧めで免許を取得したのだが、お陰で、県内全域にお得意さんがいるし、父が地元の病院から県庁所在地の病院に転院した際も、毎日のように見舞いに行けた。

 車の運転ができることもまた、母の誇り。「背中が曲がっていても、ハンドルを握ればシャキッとなる」と胸を張っていた。