Q2:なぜいま、大腸が注目されるのでしょうか?

松井輝明医師帝京平成大学教授・松井輝明医師 (写真/田村裕未)

 近年、腸内細菌の遺伝子分析技術が飛躍的に進歩し、特に2000年代に入ると「次世代高速シーケンサー」の登場によって、一度に膨大な数・種類の細菌を短期間に簡単に調べることができるようになりました。その結果、我々の大腸内には千種類、100兆個以上もの腸内細菌が棲んでいて、健康維持に重要な役割を果たしていることがわかってきました。腸内細菌のほとんどは大腸にいて、我々の食べるものや生活習慣で菌種や数が変わります。特に食生活の影響は非常に大きい。私たちにとって腸内細菌は、いわば自分の大腸の中に飼っているペットのようなもの。飼い主がきちんとケアしてあげれば、活発に健康のために働いてくれます。しかし、最近の日本人の食生活の欧米化やライフスタイルは大腸の健康維持とは逆行しており、実際に「大腸劣化」とも言える状況が起こっていることに危機感を覚えています。

Q3:“大腸劣化”とは具体的にどのようなことですか?

 大腸の病気にかかる人が増えていることを「大腸劣化」と呼んでいます。現在、日本人が最も多くかかるがんは「大腸がん」で、男性のがん死亡原因3位、女性は1位。昔の日本人のがんの中では、大腸がんは決して多くはなかったのですが、ここ半世紀の間に死亡率は男性が8倍、女性は6倍にも上昇しています。その他、難病である大腸の病気「潰瘍性大腸炎」「クローン病」の患者数も増えており、日本人の大腸の健康に何か根本的な問題が起こっているとしか思えない状況です。また、身近なところでは便秘人口は国内に2千万人程度。高齢になるほど便秘は増えますが、小学生でも4割近くが便秘か、便秘予備軍であるという報告や、赤ちゃんの便秘の半数は0歳児から始まっているという報告もあり、便秘は思った以上に早くから始まっているという印象です。便秘は大腸内に毒素が溜まり、大腸劣化を引き起こします。

 実は、大腸はそもそも病気にかかりやすい臓器なのです。よく「人間の免疫力の7割は腸でつくられる」と言われますが、それは小腸の話。自分を守る免疫器官が備わっている小腸に比べると大腸は決して強い臓器ではありません。ですから、自分自身でケアをしなければ健康が保たれないのです。

Q4:なぜ“大腸劣化”が起こるのですか?

 大腸劣化の根本原因は腸内フローラの乱れ。大腸内が細菌たちにとって棲みやすい環境ではなくなり、特定の菌種が減ったり、増えたりしてバランスが崩れるのです。腸内フローラの乱れが起こる最大の原因は腸内細菌のエサである食物繊維の不足です。特に近年は「炭水化物抜きダイエット」が流行しており、昔から日本人にとって重要な食物繊維源であった穀物の摂取が減り、食物繊維不足に拍車がかかっています。

 さらに炭水化物を抜く代わりに肉などのたんぱく質の摂取が増えると、今度は「ウェルシュ菌」などのいわゆる悪玉菌が増えてしまいます。腸内細菌にはそれぞれ好むエサがあり、私たちがどんな食事を摂るかで菌種同士の勢力図が変わってくるのです。また、運動不足も大腸劣化の原因です。じっと座ったまま動かない時間が長いと、全身の血行が悪くなり、筋力が低下して大腸の動きも悪くなります。特に中高年の方には食事を減らして体重を落とすより、体を動かして筋力をつけることをお勧めしたいですね。

Q5:善玉菌と悪玉菌の割合はどの程度が良いのですか?

 従来「善玉菌」「悪玉菌」、そのどちらでもない「日和見菌」の比率は2:1:7が望ましいと言われていました。しかし、これまで善玉菌と考えられていた細菌の中にも有害な作用をするものがあることや、逆に悪玉菌の中にも健康維持を助ける働きをするものがあることがわかってきました。そこで、現在は善玉菌、悪玉菌のバランスを考えるよりも、細菌の多様性、多様な菌種が棲んでいることが重要であると考えられるようになりました。