絶滅動物たちの「自分語り」を思いついたきっかけは、朝ドラ
――あと、特徴的なのが文章です。書名にもなっていますが「絶滅した生き物たちが自分で絶滅理由を語る」という発想は、どのように生まれたのですか?
金井 本書にも書いてあるのですが、個人の終わりが「死」だとすると、種の終わりが「絶滅」。だから絶滅を語る上では、どうしても重さや悲しみを背負わざるを得ません。でも、それを第三者が「この動物はこうやって死にました」って端的に説明だけすると、何か嫌な感じがするなって思って……。それで、どうすれば嫌な印象を与えずに済むか悩んだ結果、「ああ、『朝ドラ』だ」と。
今泉 どういうことだ(笑)。
金井 私、当時NHKの朝ドラにはまってたんですけど、朝ドラって他のドラマにはない「語り」がバンバン入るんですよね。年老いた主人公が、自分の少女時代に自分でナレーションを付けたり。そうすると過去の暗いシーンや挫折の場面も、まだ希望があるように感じられるんです。
――『わけあって絶滅しました。』では絶滅を必ずしも悲劇とは扱っていませんよね。絶滅と進化は表裏一体で、「絶滅は同時に進化を促すこともある」と書かれていたのが印象的でした。
今泉 絶滅といっても、大きく分けて2つあるんです。「自然絶滅」と「人為絶滅」ね。自然絶滅というのは、例えば大陸移動や気候変動の影響によって絶滅するパターン。対して人為絶滅は、ハンターによる狩猟や環境汚染による絶滅のことです。
金井 そのうち進化を促すのは「自然絶滅」のほうですよね。
今泉 そう、自然界の生き物のつながりというのは直線的ではなくて、網のように有機的につながっています。だから一種類の動物が絶滅しても、そのポジションに別の動物が進出して新しい発展を遂げたりする。でも人為絶滅はそれがありません。その場にある生態系自体を根こそぎ消滅させるため、進化が生まれないんです。これは避けなければならない。だから絶滅といっても、分けて考える必要があるんですね。
人間も「しょせん根本は虫」と思えば、気持ちがラクになる
――本書に書かれた絶滅理由を読むと、自然界の出来事なのに、私たち人間社会にも当てはまるような話がたくさんあります。実際に「ビジネスにも役立つ」という感想も少なくないようです。
今泉 自然界と違って人間の場合は、「人間そのものが環境でもある」から非常に複雑だよね。人間界というのは関係性の社会で、人はそのつながりを断っては生きていけません。大半の人が、生きるために「あの人とは仲良くしなきゃ」とか「嫌われたらどうしよう」ってことに頭を悩ませているわけでしょ。
金井 先生はよく「動物を知ることは人間を知ることだ」と仰っていますよね。
今泉 そう、だからせめて単純な自然の仕組みくらいは知っておくべきでしょうね。それをベースに人間のことを考えると思考がクリアになる部分もある。生物学の分野でも、まず単純な動物の仕組みや行動原理を研究して、それを別のもっと高度な動物の研究に応用したりします。
金井 その単純な動物っていうのは、例えば……?
今泉 昆虫だね。昆虫は行動パターンが反応的だから。例えばゴキブリは明るい所から暗い所へ逃げると決まってるんです。これが哺乳類になると「おれは明るいほうへ行ってみるか」とか考えるやつも出てきて面倒くさい(笑)。子どもが皆、虫が好きなのもね、単純でわかりやすいからですよ。
金井 そういう動物の仕組みを調べていくと、どんなことがわかるんですか?
今泉 人間の根本にも、動物の単純な仕組みが入っているということです。人間って、ほかの動物とは根本的に違う存在に思えるけど、元の部分は案外単純で機械的に動いてるんですよ。つまり「本能」ですね。そこに進化によって発達した哺乳類の脳が後から入ってきて、本能と思考がぶつかって悩んだり、非合理的な行動を取ったりする。そこが人間らしさ、面白さでもあるんだけど。
金井 単純な仕組みから人間の中にもある「本能」を理解すると、自分や他人に対する見方も変わってくるのでしょうか?
今泉 変わるよね。人間はいちばん偉いんだと思ってたけど、根本は昆虫と変わらないと知ったら、客観的にならざるを得ないでしょう(笑)。酒を飲んで理性が麻痺したときなんて、すごくわかりやすいですよ。つい赤い光に引かれてふらふらしちゃったり(笑)。
金井 ああ、赤ちょうちんの誘惑に負けて、思わずもう一杯飲んじゃうんですよね(笑)。
今泉 だから複雑になり過ぎた考えを整理したり、自分や他人の行動を客観視するのに使えるんです。「あれは本能の部分だから仕方ない」とか「この人の行動はあの虫にそっくりだな」とか(笑)。そう考えるといろいろ諦めもついて、前向きになれるでしょう?
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