日本経済の足を引っ張る
「成長しない小さな会社」

 そこで気になるのは、1964年に一体何が始まったのかということだろう。一言で言ってしまうと、「小さな規模のままで成長しない企業」が爆発的に増えるという「異常現象」が起きたのである。

 というと、「職人文化のある日本で小さな事業社が多いのは伝統だ」みたいなことを言う人がいるが、実はもともと日本の企業規模はそこまで小さくなかった。1964年を境に、急に中小企業が増えたのだ。もちろん、当時は労働人口が右肩上がりで増えているので、雇用の受け皿として中小企業にニーズがあったことは間違いないが、問題はその「増え方」だと、アトキンソン氏は指摘する。

「もっとも注目したいデータは1975年以降1995年までの企業の増減の中身です。この間、日本企業は約170万社増えますが、そのうち、約150万社が従業員数10人未満の企業です。もっとも生産性の低い、給料が少ない企業です。この増え方は異常ですし、それ以上に重視したいことは、それらの企業の多くが20年経っても従業員数10人未満のままで、伸びていないことです」(P106)

 世の中に小さな企業がたくさん生まれたら通常、歩む道は「成長」か「廃業」だ。つまり、アップルやアマゾンのような世界的企業とまではいかなくとも、社員3人で始めた会社が10人、20人と増えていくものである。それができないということは、事業モデルに致命的な欠陥があるわけなので、普通は廃業や倒産に追い込まれる。

 しかし、日本ではどういうわけか、新しく生まれた小さな企業が「成長」もしなければ、「廃業」もしない。社員5人で始めた会社が、20年経過しても5人のままというケースも珍しくない。まるで大人になるのを拒む子どものように、小さい会社が小さいままで継続する――。このような「成長なき小さな企業」があまりにも多いことが、「異常」だとアトキンソン氏は言っているのだ。

 では、なぜそんなピーターパンのような中小企業が、1964年を境に爆発的に増えたのか。アトキンソン氏はその前年、「中小企業救済法」と揶揄された「中小企業基本法」が制定されたことが諸悪の根源だと見ている。

《企業を増やすためにと1963年につくられた中小企業基本法の下、中小企業の定義が製造業は300人以下、サービス業は50人以下と定められ、そこに加えて、「小さい会社」でいることの税制上のメリットなども整備されたことで、そのメリットを受けるため、多くの人が非常に小さい会社をつくって自動的に一企業あたり平均社員数が減っていく仕組みができ上がったのです》(P127)

 つまり、世界の産業政策の常識では、「小さい企業が努力して規模を大きくする」ということにインセンティブが与えられるが、労働人口が急激に増えた日本では、「会社が増えれば雇用の受け皿が増える」という考えのもとで、とにかく「小さい企業を潰さない」ということが最優先事項とされたせいで、「小さい企業」として存在するだけで、様々なインセンティブを与えられるようになってしまったというわけだ。