上記(1)を例に見てみよう。まずは携帯電話事業売却に至った経緯から。

 もともとノキアの携帯電話には「シンビアン」という独自OSが使われていた。だが、シンビアンは拡張性に問題を抱えていた。そのため、新機能を搭載した携帯電話の新商品を提供するのが、iPhoneやAndroid搭載機よりも遅れてしまいがちだった。

 そこでノキアはシンビアンの開発を中止し、自社製品に搭載する代わりのOSを探すことにした。検討する中で、マイクロソフトが自社開発したモバイル用OS「ウィンドウズフォン」を採用するハードウエアメーカーを探していることを知る。

 両社の利益が一致し、ノキアはマイクロソフトと戦略的提携契約を締結。ウィンドウズフォンをノキア携帯が独占的に採用することで、巻き返しを図ろうとした。

マイクロソフトの戦略転換で考えた
3つのシナリオとは?

 しかしその後、マイクロソフトは自社製品としてタブレット「サーフェス」を、ノキアへの通告がないまま発表したのだ。

 もし、マイクロソフトの戦略として、サーフェスの延長線上にスマートフォンを開発するとなれば、たちまちノキアは窮地に陥る。なぜなら、マイクロソフト製のウィンドウズフォン機という、強力なライバルと戦わななければならないからだ。

 ここでシラスマ氏は、パラノイア、すなわち極度の心配性になり、次の3つのシナリオを想定、吟味する。

A.マイクロソフトがノキアを買収する
B.マイクロソフトが他の携帯会社を買収する
C.マイクロソフトは自力でモバイル製造業者になる

 本書に紹介されているシラスマが描いたシナリオでは、上のA、B、Cには、それぞれを前提とした、いくつかのサブシナリオが設けられている。

 Aの前提は、当然ながら経営陣の猛反発は避けられない。だが、交渉次第で買収額に良い値がつけば、それを元手に再出発ができるだろう。

 Bはノキアにとって最悪だ。もしマイクロソフトが、ハードウエアを安く提供する台湾のHTCなどを買収したとしたら、目も当てられない。ノキアは価格面でまったく対抗できなくなる。

 Cは、非現実的だ。マイクロソフトにはノウハウがなく、対応に時間がかかると予想されるからだ。

 さらに細かくシナリオを洗い出した結果、シラスマ氏は、最悪のBを阻止しつつ、Aをできるだけノキアに有利な条件で進める方針を固めた。あとは楽観主義のもと、経営陣が一丸となって進めるよう社内調整をし、交渉を進めていけばいい。

 実際は、ノキアが通信インフラベンダーとして復活するところまでは、シラスマ氏は想定していなかったそうだ。パラノイア楽観主義で、前向きに必要なことをこなしていった結果、良い方向に物事が進んでいったのだ。