2007年12月20日の金融政策決定会合で日銀政策委員会は政策金利の据え置きを決定した。7月以来利上げ票を投じ続けていた水野温氏委員も現状維持に回った。日本銀行は景気判断を下方修正し、米国発のダウンサイド・リスクに対する警戒を強めている。国内的には、住宅着工許可の減少も悩ましい。

 一方、中国経済は金融引き締めにもかかわらず上振れ気味の成長を示している。このため、当面の日銀は公式には、「緩やかな経済成長が続いていくのであれば、金利水準を徐々に引き上げていく」という姿勢を維持する様子だ。「コックピットの中にいて、われわれが方向感覚を失っている、あるいは失いそうだと覚えたことは一度もない。基本スタンスはきわめて明確であり、方向もきわめて明確だ」と福井俊彦総裁は12月20日に述べている(ブルームバーグ)。仮に米国経済が2008年後半に上向くという楽観的なシナリオが現実化すれば、早ければ夏場にも日銀は利上げに動くかもしれない。

 とはいえ、現時点では視界は不良。多くの日銀幹部は、正月の初詣でで、利下げに迫られるほどの景気減速に直面しないですむよう内心願っただろう。FRBなど海外の中央銀行はいざとなれば利下げのカードをいくらでも切れるが、日銀は最大でも2回しか使えない(政策金利は現在0.5%)。

 ところで、FRBは2007年10月31日に2回目の利下げを決定した際、声明文で、景気減速とインフレのリスクはこれによってバランスし、当面必要とされる処置は施し終えたというニュアンスを発した。しかし、その後、市場の混乱の高まりを目の当たりにしたFRBは、あわてて利下げモードに復帰した。

 興味深いことに、日銀もバブル崩壊初期の1991年12月に3回目の公定歩合引き下げを決めたときに似たような声明文を出している。「日銀としては、今回の措置により、こうした目的(バランスの取れた経済への移行)を実現していくうえでの必要な条件を金融面から十分整えることができたものと考えている」。当面、追加利下げはないので、企業はそれを前提に行動してほしいという趣旨の文章が記載されていた。

 バブル崩壊の初期に、それが実態経済に与えるインパクトの程度を予見することは非常に難しい。過大に見積もって利下げをやり過ぎると、インフレや別の資産バブルが生じる恐れもある。FRBは従来、バブル膨張を抑えるために金融政策を使うことは適切ではなく、バブル崩壊後に機敏に対応すればよい、と主張していた。しかし、現在は現実の対応の難しさを噛み締めているに違いない。
(東短リサーチ取締役 加藤 出)