よりよい教育環境を目指して、公立小学校の通学区域を意識して住む場所を選ぶ時代になった。だが、教育環境においてどこが優れた地域なのかを見極めることは難しい。そこで、ダイヤモンド・アナリティクスチームでは、人口や世帯、住まいや教育に関わるさまざまなオープンデータを用いて、東京・公立小学校区の教育環境力に迫った。特集「東京・小学校区『教育環境力』ランキング」では、今後の学校区選びに役に立つ情報をランキング形式でお届けする。今回は、ランキング作成に至る総論と、主要30自治体トップ3を一挙公開する。なお本記事の最後には、各区・市ごとのさらに詳細なランキング記事へのリンクを掲載している。ぜひ参考にしてほしい。
子どもの教育環境を求めて
公立小学校を選ぶ時代に
公立学校を選ぶために引っ越しをしました――。
東京・板橋区に住む小川一真さん(仮名)は今年9月、子どもの小学校進学を前に板橋区内の別の地域に引っ越した。教育熱心な小川さん家族は昨年末から、地域の公立学校6校の公開授業に参加し、小学校の情報を集めてきた。
引っ越す前に進むはずだった小学校では、校内に「廊下を走らない」という標語の下に英語や中国語の文字が書かれていた。小川さんは「授業は本当にうまく進むのだろうか」と不安を感じていた。
一方で、別の小学校で行われていたプレゼンテーション授業を見た時、小川さんは「子どもが自分自身の考えを堂々と伝えられている」と胸が熱くなった。不動産業者からも「評判が高い」と聞いており、「子どもの教育環境を大事にしたい」と思い、その小学校の通学区域に引っ越しを決めた。
小川さんのように、よりよい環境に恵まれた公立小学校に子どもを通わせようと、小学校の学区を決めて引っ越す親がいま増えている。中には名門公立小学校を目がけて、区や市をまたいで転居する家庭さえある。不動産業者が小学校区を売り文句にすることもあって、「公立小移民」とも呼ばれるこの現象は過熱しつつある。
割安な教育費で済み
教育熱心な親が集まる
それではなぜ、小学校区を選ぶのか。理由は大きく3つある。
まず、お金がかからないことだ。今後の受験を見据えた親としては、公立の安価な費用は魅力的だ。次に、基本的には通学区域内に住所を移せば、その学区の小学校に無条件に通える。当然、遠方に通う必要はなく、生活環境としても恵まれている。最後に、価値観の近い親が集まると期待できる点だ。教育熱心な親が集まれば、その影響で子どもたち同士も自然と勉強するようになると信じている。そのため、よりよい教育環境を、よりよい小学校区を選ぶのだ。
しかしながら、公立小学校を選ぶといっても実はそれが難しい。なぜなら、校長や教員が定期的に異動するため、学校の雰囲気が年ごとに変わる。口コミや公開授業で情報を集めても、都内だけで公立小学校は1000校を超えており、網羅的な情報を入手するのは難しいのだ。
つまり、教育熱心な親ほど学校選びに苦慮しているということだ。そこで今回、ダイヤモンド・アナリティクスチームでは、学力と推計年収のデータを軸にして、公立小学校選びに役に立つ情報をまとめた。特集「教育環境力ランキング」として、小学校区ごとの通学地域を町丁ベースで特定し、次の5点を総合的に評価したのだ。
・推計年収:世帯平均の推計年収で、年収が高い世帯が多いほど教育熱心な親が多いと見た。
・地価:小学校から半径1キロメートル範囲の平均住宅地価で、高いほど年収の高い世帯が多いと見た。
・安全性:千人あたりの年間犯罪発生件数で、低いほど地域の安全性が高いと見た。
・人気度:小学校の児童の人数で、児童数が多いほど人気が高いと見た。
・学校教育:小学校がモデル校や研究開発校などに定められていれば教育熱心な環境にあると推察した。
ここからは、主要30自治体トップ3をお伝えする前に、なぜこの指標を選んだのかを説明していこう。なお、データの都合上、現在の通学地域を全校で完全に取得できているわけではない。番地ではなく町丁ベースを基準としているため、実態よりやや広い範囲のデータとなる。こうした細かな注意点や算出方法については、最後段の「ランキングの作成とデータについて」をご確認いただきたい。