出席せずにいい成績「それ、ずるくないですか」

 都内の女子大に勤める男性准教授(44)は、一昨年に経験した学生とのやり取りが今も忘れられない。9月中旬、ため息を大きくついた後、筆者にこうはき出した。

「本当にあきれかえるしかありませんでしたよ。付き合うのも面倒だから、叱ったりしませんでしたけど。あぜんとするっていうのは、こういうことなんだと思い知らされましたね」

 新年度が始まったばかりの4月。近付いてきた1人の学生が突然訴えた。

「先生、お願いがあるんですけど」

 学生が切り出したのは、准教授が授業で出欠を取っていないことについての申し入れだった。出欠を取ってほしいのだという。

 最近の大学生の傾向だろうか。授業にはほとんどの学生が出席していた。准教授は、そんな状況で出欠を取ってもほぼ全員に等しく加点されるだけで意味がないと感じていた。そのため、その学生には必要に応じて授業の理解度を試す「レスポンス・ペーパー」を配って、内容次第で加点することを提案してみた。

 申し入れが成績の評価に関する不満だと感じたため、配慮したうえでの提案だった。ただ、学生は予想と違う反応を示した。

「それはやめてもらえませんか」

 出来の良い学生がいい点を取ることになるから、自分にメリットはないと感じたようだ。さらによく話を聞くと、本心とみられる言葉も出てきた。

「授業に出てこないのにテストで良い点を取って、いい成績を取る子がいるんです。ずるくないですか?」

 体中の力が抜ける思いがした。そんな発想をするのか、と。

「そういう学生が仮にいたとしても、事情があって授業に出られないだけかもしれないでしょう。ずるをしているのではなく、損をしながら頑張っているのかもしれないよ」

 准教授はこう諭してみたが、学生には伝わらなかった。それどころか、「出欠を取るのは当たり前だ」と、食い下がってくる。最後は納得しないまま、学生は立ち去った。

 心理カウンセラーで「インサイト・カウンセリング」(東京都)代表の大嶋信頼さんによると、相談に訪れる人の多くは「他人の得が絶対に許せない」「いつも自分が損ばかりしている」という気分になっているという。そんな気持ちに苦しむ人たちが、この社会にあふれ返っているようだ。

 大嶋さんは特に、そういう人たちが他者に攻撃的な言動をとってしまうケースは「『ルサンチマン』という言葉で説明がつく」という。

 ルサンチマンとは、「強者に対する弱者のねたみや恨み」という意味だ。准教授が経験した例では、授業をきちんと受けながらも成績が心配される学生が弱者で、授業を受けなくても成績が良い方が強者と言えるだろう。大嶋さんは「多くのケースで、『弱者がすることは正しい』と思い込んでしまう傾向があります」とも指摘する。