3:「知能」にわずかに影響する

 この分野は長いあいだ研究者の興味を引いてきました。1929年には、2人の研究者(ホーファーとハーディー)が、母乳で育てられた赤ちゃんのほうが、7歳から13歳にかけての知能指数が高くなると報告しています(9)。また、母乳だけで育てられる期間が長くなると、発達にプラスの効果があること(たとえば歩きはじめる時期が早くなる)を示すさまざまな報告もあります(10)

 この結果は母乳との因果関係を示す有力な証拠になりますが、効果はごくわずかです。2015年に行われた研究レビューは、母親の知能を考慮したうえで、粉ミルクで育った赤ちゃんより母乳で育った赤ちゃんのほうが、知能指数が約3ポイント高くなると見積もっています(11)

 ベラルーシの試験では、「母乳育児のサポートを受けた」グループの子どものほうが一般的なケアを受けたグループに比べ、知能指数が約7パーセント高くなりました(12)。また、ランダムに母乳と粉ミルクを与えられた早産児についても同様の効果が認められました(13)

 さらに、イギリスでも(社会階級と母乳育児の比率に関連が見られる国(14))、ブラジルでも(社会階級と母乳育児の比率に関連の見られない国(15))、母乳で育てられた赤ちゃんは学校の成績がよくなることが複数の研究から明らかになっています。母乳で育てられた赤ちゃんの知能指数と学業成績は両国で高くなっており、これは知能指数の向上は社会階級ではなく、母乳に原因があることを示唆しています。

 もちろん、興味をかき立てられるのは、母乳が知能にどう影響するのかという問題です。有力な説明はいくつかあります。

 まず、母乳は成分そのものが粉ミルクとは異なります。とくに、母乳には脳の発達にとって大切な長鎖多価不飽和脂肪酸(ドコサヘキサエン酸とアラキドン酸)が含まれています。そのため、母乳で育った赤ちゃんは粉ミルクで育った赤ちゃんに比べ、より高い濃度でこれらを摂取できるのです。

 ただし、母乳と哺乳瓶による授乳時の行動も重要かもしれません。母乳を飲ませる行為自体が哺乳瓶でミルクを飲ませることとは異なります。母親は母乳を与えているときのほうがたくさん話しかけるかもしれません。または、母乳と哺乳瓶による授乳では、関わり方も少し違う可能性があります。

 それでも、管で母乳を与えられた早産児の知能指数のほうが高いという事実は、母乳自体が確かに関係していることを示唆しています。ただし、影響はごくわずかです――知能指数にして3ポイント程度にすぎません。

(本原稿は、『人生で一番大事な最初の1000日の食事』〈クレア・ルウェリン、ヘイリー・サイラッド著、上田玲子監修、須川綾子訳〉からの抜粋です)