医療保険か貯蓄か…
病気リスクへの合理的な考え方とは
テレビや雑誌などで、医療保険の広告を見ていると「高まるリスクに保険で備えよう」という文言がよく出てくる。一見すると当たり前のように思えるこの言葉だが、よく考えると、とんでもない論理矛盾が隠されている。
そもそも保険というのは何のためにあるのか?ということを考えてみよう。それはめったに起こらないけど、もし起こったら自分の蓄えではとても賄えないことに対処するためだ。重要なキーワードは、“めったに起こらない”ということなのである。めったに起こらないことだからこそ、安い保険料で万が一の時の保障が手厚くもらえることになるのだ。頻繁に起こることであれば、保険料が高くなってしまうのは当然だ。これは生命保険に加入する時点での年齢に応じて保険料が高くなることからもわかるだろう。つまりリスクが高まることに対して本来、保険はあまり向いていないのだ。
これは損害保険を例にとるとわかりやすい。自動車保険に加入する場合、対人の場合は金額が無制限だが、それほど保険料が高いわけではない。一方、車両保険の場合はかなり保険料が高くなる。人身事故というのはめったに起きることではないが、車庫入れや狭い道でこすったりすることは割とよくあることだ。したがって起きる頻度によって保険料が違ってくるのは当然である。
中には車両保険自体には入っていない人もいるし、入っていても免責額を高くすることで保険料を安くする、すなわち少々こすったぐらいであれば自分のお金で修繕できるので、高い保険料を払うのはもったいないと考える人がいてもおかしくはない。
したがって、「高まるリスクに保険で備えよう」というのは自動車保険でいえば、「車庫入れでこすったりすることはよくあることだから、高い保険料を負担しても保険には入っておこう」というのと同じことになる。年を取ると病気のリスクが高まるというのはその通りだが、問題はそれを保険で備えるのが正しいか、貯蓄で備える方がいいのかということだ。頻繁に起きることであれば、それは保険よりも貯蓄で備えると考えるべきだろう。
確かに病気になった時には、経済的な不安があることは事実だろう。ところが民間の医療保険に入っていないと何の保障もないのかというと、決してそんなことはない。日本は国民皆保険の仕組みであるから、医療費の本人負担は原則3割で済む。とはいえ、入院した場合などでは医療費が月に100万円を超えるような高額になることも起こり得るだろう。ただその場合でも1ヵ月の医療費が一定額を超えた場合に対して、超えた金額が払い戻される「高額療養費制度」がある。
高額療養費制度は年齢や所得によって自己負担額の上限が異なるが、年齢が70歳未満で年収370~770万円の人が、病気の治療を受けてその月の治療費に100万円かかったとしても、その場合の自己負担額は8万7430円で済む。年齢が高くなって70歳を超えた場合は、さらに自己負担額は少なくなる。年金生活者の場合、多くは年収370万円以下であろうから、自己負担の金額は5万7600円だ。まさに年を取って病気のリスクが高まるからこそ、このような社会保険の給付制度が手厚くなっているのである。