5月中旬以降、円の対ドルレートは1ドル=105円から109円の間で推移している。円安の材料が出ても110円を超えることはなく、円高の材料が出ても105円を割り込むこともない。それはなぜなのか。背景と理由を分析した。(ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)
米中摩擦激化によるリスクオフの円高を
日本の貿易収支悪化による円安が相殺
なぜ、これほど円の対ドルレートが動かない状態が続いているのか。
まず、米中貿易摩擦の激化などによるリスクオフや、日米金利差縮小で市場が円高に振れたときには、日本の貿易収支悪化と米国経済減速ペース緩和期待による円安圧力がその進行を抑制してきた。
5月5日にトランプ大統領が対中関税追加引き上げを表明して以降、市場は投資家がリスクを回避する方向に動くリスクオフの状態になった。リスクオフの状態になると、円は高くなるのがセオリーだ。
通常の状態であれば、円が他の通貨に比べて金利の低い通貨であるため、円で資金を借りて円以外の通貨の資産に投資するキャリー取引が行われている。
ここでは、投資家が為替リスクをとっている。リスクオフの状態になると、キャリー取引をしている投資家は、外貨の資産を売り、手にした外貨を円に転換し、借入金を返済してリスクを減らそうとする。それゆえ円が高くなる。
円の対ドルレートは、セオリー通り当初は110円を割ったが、108円台で円高の進行は止まった。
円高圧力を押し戻した大きな要因の1つが、日本の貿易収支の悪化である。2018年度上半期の貿易収支は1兆1245億円の黒字だったが、2019年度上半期は241億円の赤字となった。
米中貿易摩擦の激化による中国経済減速で対中輸出が減少していることが、貿易収支を悪化させている。
その悪化分だけ、円を外貨に換えて代金を支払うことになるから、実需ベースでの円安圧力が高まっている。それが、リスクオフでの円高圧力による円買いを吸収している。
海外からの配当や利息など、第一次所得収支の黒字で経常収支は黒字が続いているものの、外貨で受け取った配当や利息は必ずしも円に転換されるとは限らず、大きな円高圧力とはならない。