「伊藤忠による窓口の持ち分比率が5割を超えたが、狙いはいったい何だろう――」。10月下旬、保険業界をこの話題が駆け巡った。
窓口とは言わずもがな、保険ショップ最大手のほけんの窓口グループのこと。1995年に窓口が創業して以降、20年ほどで742店舗にまで拡大し、契約者数は約107万人、保有契約件数は約224万件を数える巨大な保険代理店になっている(各数値は2019年6月末時点)。
その窓口に対し、総合商社である伊藤忠商事が初めて出資したのは14年3月のこと。当時の出資比率は5%ほどだったが、その後、約5年半をかけてたびたび追加出資を行ってきた。そして、19年10月29日には持ち分比率を今年6月末時点の46.23%から57.7%にまで引き上げ、伊藤忠の連結子会社とした。伊藤忠によるこれまでの累計投資額は165億円に上る。
窓口に乗り合う保険会社数は、生命保険会社や損害保険会社、少額短期保険会社を合わせて40社を超える。何より、窓口の年間取扱契約件数は45万件を超える膨大なものだけに、各保険会社からすれば、過半を超える窓口の株式を握った伊藤忠の動向が気になるのは当然のことといえる。
伊藤忠から経営陣が大挙して押し掛け、経営方針が大きく変わるのではないか。窓口の株式を上場させてイグジットするために無理な販売に走るのではないか――。こうした懸念を持つ向きもあるが、結論から言えば、これらは杞憂に終わりそうだ。
一つには、伊藤忠の商社としてのビジネスにおける方針転換が挙げられる。商社といえば、メーカーが作った商品をいかに売るかという、いわゆる「プロダクトアウト」がビジネスモデルだ。だが、最近の伊藤忠は「マーケットインの発想にシフトしている」と、伊藤忠の執行役員、情報・金融カンパニー 金融・保険部門長で窓口の社外取締役を務める加藤修一氏は言う。
つまり、これまでのようなメーカー主導ではなく、消費者が求めている商材を提供していくというのが、伊藤忠の2トップである岡藤正広会長CEO(最高経営責任者)と、鈴木善久社長の経営方針なのだという。
保険の販売でいえば、一社専属の女性外交員が企業のオフィスを訪れて、世間話をしながらチラシやあめを置いて人間関係を築き、保険を販売するのが一般的な営業スタイルで、プロダクトアウト的な販売手法だ。片や、来店した顧客のニーズに合った商品を中立的な立場で紹介する窓口のスタイルは、まさにマーケットインといえる。生活消費関連の商材の取り扱いが多い伊藤忠にとって、窓口のように「消費者接点」をつかんでいるビジネスモデルこそが、目指すべき「新たな商社像」だというのだ。
それを示しているのが、伊藤忠の「統合レポート2019」の巻頭にある岡藤CEOのメッセージだ。レポートの8ページ目には、マーケットインの発想の代表例として窓口の名前を挙げ、こうした内容のことが書かれている(下記リンク参照)。
故に、10月29日付のプレスリリースの中ほどにある通り、窓口の経営理念は変えず、顧客向けのサービスを「支援する」ことに徹するのが、伊藤忠のスタンスだ。つまり、窓口の窪田泰彦会長兼社長を筆頭とした経営体制はこれまでと変わらず、伊藤忠は窓口の側面支援を行っていくというわけだ。