心臓の表面に膜状の細胞を貼付する心筋シートは移植後に短期間で細胞が消失してしまうが、心筋球移植法は心臓の壁の中に直接的に心筋を移植するため、長期間心臓に安定して細胞が生着することができる画期的な方法だ。

「心筋細胞は、塊にすることで移植後に血流が生まれやすく、心臓で正常に機能しやすくなります。研究では3人に移植し、安全性と、心筋球が成長して心臓の収縮機能が改善する効果を確認することにしています。マウスやサルでの実験では拍動が確認できました」

宇宙ロケットから医学へ
両親のがんをきっかけにチェンジ

 福田先生の高校時代の夢は、科学者。いつか宇宙にロケットを飛ばしてみたいと思っていたという。

 だが、3年生の時に母親が乳がんになり、浪人中には父親が進行性胃がんで入院したことで運命が変わる。両親の病気に天命を感じ、慶應義塾大学の医学部を受験。見事合格し、医学の道を歩み始めたのだった。

 卒業後は大学院に進学し、同大の循環器内科を経て国立がんセンターの研究所へ。

「今から30年ほど前になりますが、そのころはちょうど、分子生物学が最先端の研究分野として注目され始めた時期でした。ところが当時の循環器内科は、大きな動物を使った生理学的な研究が主で、遺伝子、細胞、分子といったレベルで病気を診る研究はされていませんでした。大学の中で勉強しようとしてもできない。

 そこで僕は、海外の有名な研究室の先生に、『卒業後はそちらへ留学し、分子レベル、遺伝子レベルで心臓病を捉える勉強がしたい』と相談しました。すると先生は『アメリカに来てゼロから勉強するのは賢くない。なぜなら留学期間は限られる。ゼロから、しかも母国語でない領域に挑むのは勧められない。物事にはハードとソフトがある。研究手法というハード面から勉強するのでは、研究内容というソフト面にたどりつくまでに留学期間が終わってしまう。日本にも同様の領域の研究をしている機関があるから、そちらで勉強してからアメリカに来たらどうか』とおっしゃった。

 当時、日本で分子生物学を研究していた最先端の施設は、国立がんセンターの研究所でした」

 国立がんセンターへの国内留学を決めた福田先生。ところが、当時の上司だった教授は激怒した。