インフルエンザの流行期が近づき、予防接種を受ける人が増え始める季節である。ところが、予防接種の費用を惜しんで受けない人も多いようだ。それならば、流行を防ぐためにも国が費用を負担すべきであろう。(久留米大学商学部教授 塚崎公義)
インフルエンザ予防は国が取り組むべき事項
インフルエンザは、感染力の強い病気だ。これを予防できれば自分のためだけでなく、世の中のためになる。そうであれば、政府が国民に「費用は国が払いますから、世の中の多くの人のために予防接種を受けてください」と頼むのは合理的といえる。
政府の対応を待っている間に職場内で感染が広がるのを恐れるのであれば、会社が社員の費用を負担して予防接種を受けるように促すことも検討すべきだろう。それでも予防接種を受けない社員は存在するだろうが、他の社員の多くが受けることで社内での流行が予防され、受けない社員が罹患する確率も低下させられるはずだ。
予防接種を受けない人は実は合理的?
インフルエンザに罹患(りかん)すると、体調の悪化から仕事などにも支障が出かねない。それを金銭に換算して、1人2万円の損失を招くとしよう。他人に伝染させることで、社会に与える損失が3万円、合計5万円の損失だとする。
そして、インフルエンザに罹患する確率が、予防接種を受けないと2割、受けると1割に低下するとしよう。個人にとっては、2万円の損失を被る確率が1割減るので、予防接種の期待値は2000円である。予防接種の代金が3000円であれば、個々人にとっては予防接種を受けない方が合理的といえよう。
中にはリスクを極端に嫌う人もいるし、入学試験を控えた受験生のように罹患のコストが非常に高いと考える人もいるだろうが、本稿ではそうした個人差は考慮しない。
一方で、社会全体として考えれば、多くの人が予防接種を受けることが望ましい。本人の苦しさと社会への迷惑を併せて考えれば、5万円のリスクが1割減るのだから、予防接種代の3000円は割に合うからである。本稿では、予防接種が痛いとか面倒だとかいう問題は考えないことにしよう。