新入行員さえ
「李下に冠を正さず」を実行する

 国のトップであれ、企業のトップであれ、組織の長たるもの、高いレベルの倫理観が求められる。組織の長だけではない。他の組織の命運を左右する機関に従事する人々にも、法律や常識にとどまらない高い規範が要求される。

 社会人になって3年目に、私は保険会社から都市銀行に出向した。その初日に、銀行で上司になる管理職から訓示されたことが、今でも忘れられない。「銀行員には、お取引先の企業や顧客の模範になる振る舞いが要求される。大切な財産を預けてもよいと思っていただける、信用できる人でなければならない。信用できないかもしれないと思われてしまうだけでも、銀行員としての資格を失う」というものだった。

 具体的には、「銀行を出て自宅に帰るときには、できるだけ手ぶらであること」「電車に乗るときは、両手でつり革をつかむこと」という一例が挙げられた。書類を持ち帰ったら紛失するおそれがあるかもしれない。両手でつり革をつかまなければ、痴漢に間違われるかもしれない。実際に書類を紛失したか、痴漢をしたかが問題ではなく、紛失するかもしれない、間違われるかもしれないことをしないというルールなわけだ。

 これらは法律で決められていることではないし、常識であるとも言えない。しかし、法律や常識よりも高いレベルの行動を銀行員は実施している。新入行員さえ実施している「李下に冠を正さず」を、国のトップが実施できないはずがあるまい。