名医やトップドクターと呼ばれる医師、ゴッドハンド(神の手)を持つといわれる医師、患者から厚い信頼を寄せられる医師、その道を究めようとする医師を取材し、仕事ぶりや仕事哲学などを伝える。今回は第24回。抗がん剤治療による副作用を予防・軽減する支持療法を究める安井博史医師(静岡がんセンター副院長)を紹介する。(医療ジャーナリスト 木原洋美)
納得した時間をどう生きるか
患者も含めたチームで究める
「病は気からといいますが、こうした気の持ちようが、治療にもいい効果をもたらしてくれているような気がします。仕事しているときは、自分ががんであることを忘れています」
静岡がんセンターの支持療法センターに通院するHさん(70代男性)は、明るく笑いながら教えてくれた。
4年前にステージ4の胃がんと診断され、以来、通院での抗がん剤治療を続けてきた。がんのステージ(病期・進行度)は4段階に分類され、ステージ4は最終段階にあたる。発見当初は、末期の肝臓がんが疑われたことから、「なすすべなし」と告げられ、Hさんは「あとはもう緩和ケアをしっかりやって、できるだけ楽に逝かせてほしい」と覚悟した。
ところが2週間後、医師から連絡が入る。「がんは肝臓から発したものではなく、胃がんから肝臓に転移したものだった。胃がんであれば、現時点でもやりようがある」という。