提案されたのは、「支持療法による抗がん剤治療」だった。

「副作用をうまくコントロールできるよう我々スタッフが全面的にバックアップしながら、通院で抗がん剤治療を受けていただきます。会社経営を続けることも可能かもしれません」

 支持療法センター担当副院長の安井博史先生の説明に希望が湧いた。

「僕はずいぶん昔に、母親も兄弟もがんで亡くしていますので、治療がどんなにつらく、大変かは知っていました。それが入院しなくてよくて、仕事も続けられるなんてね。医学はずいぶん進歩したんだなぁと、ありがたく思いました。昔とは比べ物にならない」(Hさん)

 それから4年。次々と襲ってくる多様な症状を乗り越えて、Hさんはいきいきと生きている。会社経営も現役だ。冒頭の「病は気から」の実感も、「がんであることを忘れて」しまうほど、副作用のコントロールがうまくいっている証だろう。

 抗がん剤治療と聞くと、誰もが激しい嘔吐(おうと)、脱毛、死ぬほど苦しいなど、過酷な闘病をイメージする。実際、治療効果よりも副作用のダメージが大き過ぎて、治療を断念せざるを得ないこともある。支持療法に限らず、治療が効くか否か、副作用の強弱には個人差が大きい。

「がんを宣告された瞬間に、皆さん必ず死を予見するでしょう。医学的にはまだ、抗がん剤治療をやったところで死を免れるという話はできませんが、それでも生きるというところを支えて、患者さんに納得した時間を過ごしていただけるよう、僕たちが一緒に考えることはすごく大事だと思っています。

 患者さん本人やご家族、看護師や臨床心理士、薬剤師に栄養士等々、いろいろな人たちに参加してもらい、ワンチームとなって治療を支える。患者さんの目的に沿える治療の形を一緒に作っていきたい」(安井先生)

正解が存在しない世界で
最善を求め、模索してきた

 支持療法とは、「がんそのものに伴う症状や治療による副作用に対しての予防策、症状を軽減させるための治療」(国立がん研究センター がん情報サービス)だ。静岡がんセンターは2002年の開院当初より、「支持療法」「抗がん治療」「緩和ケア」を3大治療方針として掲げ、実践してきた。

 2016年に、支持療法をより適切に提供する目的で日本初の「支持療法センター」を開設した際、担当に任命されたのが、消化器内科部長として長年にわたり化学療法に取り組んできた安井先生である。