プロジェクト初期の段階では、中国とオーストラリアの2つの建築事務所がそれぞれ独自の設計構想を打ち出した。一方の提案は波型の構造、他方はくぼみのある長方形だった。あるプロジェクト・メンバーは「あたかも敵と味方に分かれたかのようで、両者はぴりぴりとした緊張関係にあった」と振り返る。
また別のメンバーは次のように言う。
「2つの基本設計が同時進行しているかのようでした。一方は自分たちのアイデアを実現すべく水面下で動き、もう一方は『わが道を行く』といった具合です」
私が調査したハイテク素材メーカーの製品開発チームについて考えてみよう。地理的に離れているこのチームは、新製品の発売を計画する日本メーカーから委託を受け、特注ポリマーの開発に取り組んでいた。ところが、顧客との関係について文化的な規範が違うために対立が起こり、崩壊寸前のところにまで追い込まれていた。
アメリカのマーケティング担当者は、特注ポリマーの長期的なビジネスチャンスを見極めるために、委託元の市場戦略を数字でつかむ必要があると訴えた。ところが、その意見は日本人のメンバーに退けられてしまう。マーケティング担当者はひどく失望した。一方の日本人メンバーは技術者で、「このマーケティング担当者は厚かましいうえに頼りにならない」と判断した。
委託した日本メーカーでは、新製品に対する戦略が固まっていなかった。これから関係を築こうとしている段階でさらなる情報を求めては、顧客の「面子」が潰れてしまうおそれがある。アメリカのマーケティング担当者はこの状況を理解した。
同じ企業でまた別の話がある。このチームは、3大陸に散らばる5カ所の研究所で働く専門家七人が、ぎりぎりの日程で別のポリマーの開発に取り組んでいた。持てる知識を出し合い、特殊化合物を何とか調達しようとしたが、行き詰まってしまった。結局、あるメンバーの同僚ならこの化合物を生成できることがわかったが、この同僚はチームの正式なメンバーではなかった。
このように技術的にも科学的にも複雑度の高いプロジェクトでは、想像が及ぶ範囲の限界のみならず、別のプロジェクトとの間に存在する垣根を超えて、チーミングが実現することがある。専門知識を持つ仲間が善意で手助けしてくれる時である。
以上、簡単に事例を紹介したが、ここから明らかなように、チーミングには、手法面でも人間関係の面でも課題がつきまとう。
したがってこれを率いるリーダーは、プロジェクト・マネジメント(計画を立て、変わり続ける複雑な環境で実行する)とチーム・リーダーシップ(メンバーが入れ替わり続けるため対立したり、衝突しやすい集団のなかでコラボレーションを奨励したりする)の両方のベスト・プラクティスを取り入れる必要がある。
プロジェクト・マネジメントはチーミングの言わばハードウエアであり、チーム・リーダーシップはソフトウエアである。まずはハードウエアから見てみよう。