プロジェクト・マネジメント:チーミングのハードウエア
チーミングの効果を高めるため、リーダーは、以下の問題に取り組まなければならない。
●課題についてよく調べる。
●簡易な枠組みを用意する。
●実行すべきタスクを分類する。
よくある過ちとは「チームである以上、あらゆる点でコラボレーションが求められる」と思い込むことである。むしろ情報提供や意見交換は、必要な時のみに限られるべきで、すべてのタスクをチームで取り組むのは時間の浪費である。
また、複雑さに対処するために作業を「立ち上げ」「計画」「実行」「完了」「モニタリング」の段階に分ける従来からのプロジェクト・マネジメント手法があるが、これを不確実性がきわめて高いプロジェクトに用いるのも間違いである。
チーミングのハードウエアは、これらの手法を修正すれば、学習や計画の「後」ではなく「最中」に実行できるようになる。
課題についてよく調べる
どんなチーミングであっても、(風にさらされ移ろいゆく)砂地に線を引くことが第1のステップである。具体的には以下の点を見定めていく作業である。
●克服すべき課題
●求められる専門性
●コラボレーションが可能な人物
●メンバーの役割と担当
ウォーター・キューブのプロジェクト・リーダーたちを例に取れば、まず取り組んだのは、建築工学や設計分野で最先端のスキルを持ち、なおかつコラボレーションにすすんで参加できる企業を環太平洋地域から選び出すことだった。
他の組織にこの活動を当てはめて考えると、それは必要な専門能力を持つ人材を見つけるために、組織内の階層を縦横に探し回ることかもしれない。
すでにチーム・メンバーが決まっているのなら、このステップは、新たに必要となる資源を見極めること(ハイテク素材メーカーの2番目の事例)である。あるいは時間の拘束を解くことで、別のチームに参加可能なメンバーがいるかどうかを確かめることもある。
この段階をうまく乗り切るには、その時点での仕事内容を可能な限り明確にしたうえで、それがプロジェクトの進行に伴い変化するものと認識しておくことだと申し上げておこう。
簡易な枠組みを用意する
第2のステップは、チームが滞りなく仕事をこなせるよう何らかの枠組み(たとえて言えば「足場」)を用意することである。建設現場で組む足場は、作業をうまく下支えできるような、簡易で一時的なものである。
その場限りだが、互いの協力関係が必要な仕事を、メンバーが固定しない状況で遂行する際、こうした枠組みがあれば、各自の担当範囲や目標を明らかにすることでチームの助けとなる。チーミングの足場とは次のようなものである。
●メンバーの経歴や職歴についての適切な情報のリスト
●共用の無線周波数、チャット・ルーム、イントラネット
●チーム・メンバーの職場への訪問
●一時的な共用スペース
バスケットボールの選抜チームの試合で敵味方を区別するために、シャツを使うことがあるが、これは一種の足場づくりである。あるいはたとえば、メンバーは四人、それぞれ役割も違い、3つの現場に分かれるという救援隊に対し、最初に簡単に状況を説明するのも足場づくりである。こうした枠組みをつくる目的は、チーミングの参加者が、仕事の調整や意思疎通をしやすくすることにある。実際に会うこともあれば、バーチャルな手段による場合もあるだろう。
ハーバード大学博士課程に在籍するメリッサ・バレンタインと私は、先頃共同で、ERにおける「足場」の使われ方を調査した。ERではチーミングのテンポが生死を分ける。医師、看護師、医療技師たちは、段取りが刻一刻と変わるなか、協力しながら、的確な治療判断を下し、完璧にテキパキと仕事をする。勤務シフトが同じでも、長年の仕事上のつき合いを持たないことも多く、互いの名前を知らないことすらあるだろう。
我々の調査でわかったのは、いくつかの病院でその場のコラボレーションを容易にするような仕組みが試されていたことである。ERを分割して「ポッド」(群れ)と呼ぶ小さなチームをつくり、それぞれあらかじめ役割構成を決めておき(たとえば、主治医1名、看護師3名、研修医1名、インターン1名)、医師たちは交代勤務する。こうすると、それぞれのシフトにおけるチーミングの準備は早い段階で確立する。そのおかげで、調整の時間は減り、結果に対する説明責任(アカウンタビリティ)は強化され、治療の効果も高まり、患者の待ち時間を短縮できる。
企業の場合、優先順位の高い短期プロジェクトの足場として、間に合わせであっても共同の場所がつくられることが多い。
モトローラはこの方法で、史上最大級のヒット商品を生み出した。携帯電話〈RAZR(レーザー)〉である。
グローバル市場で熾烈な競争にさらされていた同社は、2003年、当時としては最も薄い携帯電話の製造に乗り出した。電気工学の専門家であるロジャー・ジェリコがプロジェクト・リーダーで、メンバーは、さまざまなグループから集められた開発エンジニアなど20名の専門家たちである。彼ら彼女らは、シカゴから1時間ほどの施設(ヒットが生まれなければ平凡な場所で終わっただろう)を拠点に、プロジェクト終了まで協力して働いた。
このプロジェクトから生まれた製品は2004年に発売され、みごとに成功した。発売後4年間で1億1000万台以上の〈RAZR〉が販売されたのだ。