「マヌケ」という言葉は、「バカ」と混同されがちだけど、「マヌケ」という言葉を使っていたら人間関係も仕事関係も良くなっていくし、マヌケであればあるほど運はたまっていくよ!
そんな、欽ちゃんのあったかい言葉が詰まった本『マヌケのすすめ』が、発売になりました。この連載では『マヌケのすすめ』から、とくに心に響く部分を抜粋して、萩本欽一さんの言葉を紹介していきます。(撮影/榊智朗)

萩本欽一 テレビでどうしても「バカ」を使わなくちゃいけないとき、僕が工夫してきたこと

仕事として「バカ」という言葉でキレを出したあとに、
濁す意味でオマケを付け加える

 さっきから「バカ」は使っちゃいけない、「マヌケ」を使いましょうって言ってるけど、 ぼくもテレビや舞台ではさんざん「バカ」を使ってきたんだよね。

 コントとかのお笑いでは、キレがいい響きの「バカ」じゃないとドカンと落ちない。
「バ」の濁点ってとっても強くて、聞く人の耳にスパーンって入っていくんですよ。
「マヌケ」は「まみむめも」があって、次が「なにぬねの」ですからね。ふにゃふにゃっとしてて、耳に入っていかないから、「このマヌケ!」だと笑ってもらえない。

 だからぼくも、準オチっていってオチに準ずるような場面では、「このバカ!」って言ってた。
 笑いの方程式でいくと、使わざるを得ないんだよね。
 ただ、「バカ」っていうキツイ言葉をそのまま使いたくないなとは、ずっと思ってました。。

 なるべくね、テレビを見ている人に不快感を与えないように、「バカ」とか「バカじゃん」 ではなくて、「バッカ~ンよぉ」「バッカ~ンなのぉ」って言うようにしてたつもり。
 仕事として「バカ」という言葉でキレを出したあとに、濁す意味でオマケを付け加える。   

 「バカ」っていう言葉が持っている力も、マイナスの部分も知っていたから、そうしてきたの。
 まあ、それでも「バカ」っていう単語に反応して「子どもが汚い言葉を真似したらどうするんです!」って、怒ってくる人たちはいたけどね。

 さっきの「そうしてきたの」もそうだけど、ぼくは昔からコントでもインタビューでも「女言葉」を使ってきた。
 これも、「バカ」を濁しているのと意味は同じですね。
 響きのキツさをなるべくやわらげたいなと思っていたら、いつの間にか「女言葉」になっちゃった。
 狙いや計算があったわけじゃなくて、いわばマヌケな響きを目指した結果だよね。

 「なんでそうなるの」と「どうしてそうなるんだ」では、印象がずいぶん違う。
 昔『コント55号のなんでそうなるの?』っていう番組をやったけど、あれがもし『コント55号のどうしてそうなるんだ?』だったら、怖そうで見る気がしないよね。
 怖い顔で詰め寄られているみたいで、間違ったことを言ったら、それこそ「このバカ!」って怒られそう。

 言葉を使う上で、響きってすごく大事なんだよね。
「マヌケ」っていう言葉が、やさしく許しているように聞こえるのは、響きがやわらかいからっていうのが、すごく大きい。
 自分が使う言葉の響きに無頓着だと、思わぬ誤解を招くことがあるかもね。

(本原稿は、萩本欽一著『マヌケのすすめ』からの抜粋です)
*撮影協力/駒澤大学