「シーチキン」で知られる、はごろもフーズが沖縄の首里城復元のために、1億円を寄付して話題になっている。沖縄はツナ缶の一大消費地だからだ。しかし、もう少し掘り下げて見てみると、サバ缶に押されて消費量を下げているツナ缶、という苦しい事情が透けて見える。(ノンフィクションライター 窪田順生)

はごろもフーズが
首里城復元に1億円を寄付

シーチキンの缶詰外観沖縄県民は全国平均の4倍も食べてくれているが、日本全体でみると、サバ缶に王者の座を奪われてしまった Photo:JIJI

 やれパワハラだ、やれ不正だ、やれ改ざんだ、と暗い話が多い企業ニュースのなかで、久々にホッコリするいい話である。

「シーチキン」で知られる、はごろもフーズが、火災で消失した首里城の復元のためにと、沖縄県にポーンと1億円を寄付すると発表したのだ。

 なぜこんなに気前がいいのかというと、これは「沖縄県民への恩返し」だという。

 実はアメリカの缶詰文化の影響が強い沖縄は、「シーチキン」の消費量が全国ナンバーワン。チャンプルーなど沖縄料理にはツナが欠かせないということで、各家庭で必ず常備しており、「箱買い」も珍しくない。同社の調べでは、県民1人あたり消費量は全国平均の4倍にもなるという。

 日頃から「シーチキン」を熱烈に愛してくれる“お得意さま”が心を痛めているのを、黙って見てられないというわけだ。

 これを受けてSNSでは、「沖縄ってそんなツナを食べるの!」と「秘密のケンミンSHOW」的な驚きの声が上がるとともに、「ツナ缶の恩返し」なんて感じで「美談」として語られ、はごろもフーズへの称賛が溢れている。

 ただ、個人的にはどうも素直にこの話を受け取ることができない。

「首里城の復元に少しでも役に立ちたい」「創業90周年記念事業の一環」(はごろもフーズのプレスリリースより)という説明もどうにも建前的で、裏には、はごろもフーズ側の何かしらの「戦略」があるのではないかと勘ぐってしまうのだ。

「妄想乙」という言葉が聞こえてきそうだが、なぜ筆者がそんなひねくれた見方をするのかというと、はごろもフーズが「戦争」の真っただ中にいて、かなり苦戦を強いられていることが大きい。

 それは、長年のライバルであるサバ缶と生産量トップを巡ってバチバチのバトルを繰り広げている「サバ缶・ツナ缶戦争」である。