「現在のような金融危機が今後も拡大し続ければ、実態経済が打撃を受けるのは確実。そうなれば、ドーハ・ラウンドの交渉再開にも悪影響が出かねない」
10月上旬、ベルギー・ブリュッセルのEU本部において、デビッド・オサリバン欧州委員会通商総局長は、当社を含む日本のマスコミ各社に対してこのように語った。
EUは、7月に決裂したドーハ・ラウンド閣僚会合において、参加国の仲介役として奔走した経緯がある。その事務方のキーパーソンが海外メディアの前でこのように明言したのは、少なからぬ危機感を込めた「アピール」に他ならないだろう。
ドーハ・ラウンドとは、2001年11月にスタートした、WTO(世界貿易機関)の「新多角的貿易交渉」のこと。鉱工業製品や農産物などの市場開放を促し、世界の貿易活性化や貿易を通じた途上国の経済開発を目指す多国間交渉のことである。
この7月まで、日本、米国、欧州、オーストラリア、中国、インド、ブラジルなどを中心に行なわれた「大詰め」の閣僚会合は、波乱に満ちていた。
火種となったのは、主に農業分野である。市場開放を促す「関税率の引き下げ」や、輸入急増時に国内製品を守るために関税を引き上げる「セーフガード」(特別緊急輸入制限措置)の扱いなどをめぐって、先進国と新興国の利害が真っ向から対立したのだ。
交渉再開を模索する欧州諸国を
待ち受けていた「金融危機」
農業分野における輸出拡大を目論み、関税率引き下げに消極的な新興国を批難する米国に対し、新興国は米国の農業保護政策を痛烈に批判するなど、一部の関係諸国の話し合いは平行線を辿った。最終的には、米国、インド、中国の歩み寄りが絶望的となり、交渉は暗礁に乗り上げてしまったのだ。
「全体としてはほとんど最終合意に到っていたにもかかわらず、本当にわずかなすれ違いで合意に到らなかった」とEU関係者は肩を落とす。
その後EUは、閣僚会合の再開を目指し、諸外国と協力しながら事務方レベルの交渉をアレンジ。直近では、「11月中旬~12月中旬には会合を再開できる」との見通しから、年内合意に強い期待を寄せていた。
ところが、そのさなかに本格化した世界的な金融恐慌懸念により、状況は再び暗転してしまう。