なぜ、ECサイトからECメディアへ変わったのか?

 では、そもそも、「北欧、暮らしの道具店」がいわゆる物販を中心としたECサイトから、インタビュー記事などの読み物を中心とした「メディア」へと変わったタイミングはいつなのだろう。

「2012年前後だと思います。最初はECサイトなので広告をそれなりに出していたんですけど、売上は伸びるけど利益は出なかった。通信販売は基本的に広告でお客さんを獲得し、販促で育成して、常連になっていく人が増えたら黒字になるモデル。大元の広告費と販促費が確保できなければ成長できないビジネスなんです」(青木さん)

 しかも、「北欧、暮らしの道具店」が当初メインで扱っていたのは粗利率が特別高いわけでない雑貨。基本的には粗利が大きく購買頻度が高い化粧品や健康食品、アパレルが通販の主役になる。広告費や販促費にお金をかけずに成長することはできないか。そこでふと青木さんは、同じウェブサイトにも広告をもらうだけのサイトと、払うだけのサイトがあることに気づいたという

「両方ともウェブサイトであり、技術基盤は一緒、コンテンツの素材も一緒。なのに、なんで分かれるんだろうって。楽天とかAmazonはめちゃくちゃ広告を出しているほうです。だから単純に知名度の問題じゃない。一方でYahooニュースが広告を出しているのなんて、ほとんど見たことがない。つまり、広告を出す側ではなくもらう側になることができれば、広告費をかけずに粗利の低い商品を販売しても利益が出せる」(青木さん)

 広告をもらう側のメディアとなるためには、訪れた人全員にメリットのあるコンテンツを増やすことが不可欠だ。そこで、無料で楽しめる、商品に紐づく北欧の基礎知識にまつわるコラムを増やしたり、商品ページ自体を読んで面白いものに変えたりと手を打っていった。5万円の商品のページも500円の商品のページも、等しくコストをかけ、「どのページを読んでも面白い」ものにする必要があった。つまり、「買わない人に対するサービスを強めていった」(青木さん)のだ。

メディアが変わっても、変わらないコミュニティがいる

 こうして商品を買うことが目的のECサイトから、購買以外の機能、すなわちライフスタイルを提供する「メディア」へと変わっていったわけだが、「北欧、暮らしの道具店」を訪れるお客さんはどんな属性を持った人たちだろうか。先ほど青木さんが語ったように、たとえば雑誌で言えば『天然生活』や『ku:nel』といった媒体が好きな層であるのは間違いない。実はこの特定の価値観に共鳴するファンコミュニティをしっかり育て上げてきたことが、「北欧、暮らしの道具店」を唯一無二の「ECメディア」にしてきたポイントだ

「ある美意識や価値観を持つ人たちは、社会の中では常に自分をマイノリティだと思っている。その人たちが、自分の憧れるライフスタイルは、他にもきっと好きな人がいるな、と気づくことが大切です。僕らのお客さんも、今までそういう雑誌やメディアに支えられてきたと思うんですよね。ただ、僕らが事業を始めた時期は、紙のメディアからインターネットになり、スマートフォンが出てきて、力のあったメディアの影響力が相対的に低下してきた。そんな時期に、かつての雑誌に変わる役割を果たすものをスマートフォンというプラットフォームの中で求めていた人は多いはずです」(青木さん)

ECサイト「北欧、暮らしの道具店」がドラマや映画までつくる深い理由「北欧、暮らしの道具店」スマホアプリ。読み物ページのリーダビリティも高い

「北欧、暮らしの道具店」はメディアに合わせて顧客を囲い込むのではなく、すでにでき上がっている、特定の価値観を共有するコミュニティ(顧客)に合わせてメディアのかたちを変えていく。実際、昨年11月にはスマートフォン向けアプリをローンチ。そう考えれば、長編映画をつくっても違和感はない。映像コンテンツが映画館からタブレットに主戦場が移った時代、「自分の価値観に合うコンテンツがない」と考えるコミュニティに対して、実直にサービスを提供しているにすぎないのだ。

「今まで『ku:nel』とか『& Premium』とか、もっと遡れば『暮しの手帖』だったり『Olive』に親しんできた、ある傾向のカルチャーのコンテクストを共有している人たちがそれなりにいて、その人たちの拠り所になるものをつくりたい。それは自分たちがそのカルチャーに親しんできたから。ここが儲かりそうだな、ということよりも、この人たちのことを我が事のように感じられるし、ごく自然に楽しませたいとか喜ばせたいと思える」(青木さん)

 メディアの主戦場が紙からインターネットに変わったとしても、同じ価値観を共有するコミュニティ(読者)がいなくなるわけではない。メディアを取り巻く状況の変化についていけないのはいつも、メディアを作っている側の人間だ。あるいは、自社の商品やサービスを広告以外の方法でPRしようと安易に考える企業が、一見ウェブマガジン風のオウンドメディアを立ち上げてはやめていく。

そもそもメディアって、読者が連帯を求めているからビジネスになってきたと思うんです。最初は同人誌から始まって、一定の流通量を超えた頃に雑誌のブランドが成立して、ビジネスになる。一方、そもそも顧客が連帯することを求めてない分野でメディアは成立しないんです。自社のファンがいても、たとえば食品メーカーのファン同士が互いに連帯したいと思っていなければメディアをつくる必要がない。だから、連帯したい人を増やすことよりもPR効果を期待するオウンドメディアと、『北欧、暮らしの道具店』は違う。僕たちはメディアだと思ってやっていますから」(青木さん)