「貧」や「困」は、健康に関するリスクを高める。当然といえば当然の結果であろう。次にすべきことは、その人々をリスクから遠ざけることである。さらに、万一の感染や発症が起こった場合は、適切な医療が受けられるようにすることである。

 ところが、生活保護で暮らす人々は、医療機関を受診する前に、福祉事務所に医療券を受け取りに行く必要がある。このことは、「もしも新型肺炎に罹患していたら、福祉事務所の職員や他の来所者に感染を拡大させるかもしれない」ということだ。

医療からも感染症対策からも
忘れられた人々の「行く先」

「医療が無料だから、無用な診察や検査や処方を求める生活保護の人々」という“迷信”は根深いが、当事者から聞く話で圧倒的に多いのは、医療の受け控えだ。

 福祉事務所に行き、生活保護の医療扶助を申請して医療券の交付を受けるにあたって、担当ケースワーカーに嫌味を言われるかもしれない。男性ケースワーカーが、婦人科の疾患についての症状の説明を求めてくるかもしれない。ついで医療機関に行って診察や処置を受け、調剤薬局に行って処方を受けるのだが、窓口で露骨な生活保護差別を受けたりするかもしれない――。

 そのような経験は、以後数年間にわたって、「なるべく医療を受けない」という選択の原因になり得る。悪化してどうしようもなくなり、なんとか福祉事務所や医療機関に行けば、「なぜ、こんなになるまで放っておいたのですか」という叱責も覚悟しなくてはならない。そして、医療が必要でも医療に近寄れない状況にある人々は、他にもいる。

 国民健康保険料の滞納が続くと無保険状態となり、保険証ではなく「資格証」を発行される。医療機関を受診することは可能だが、全額自費負担となる。滞納している保険料を支払えば、自費負担分以外の7割は返還されるわけだが、低収入・無収入によって国民健康保険料を滞納する人々にとって、医療機関の窓口で全額を自費負担することに現実味はない。