>>(上)より続く

「ドヤの寝具は臭い」という
ウワサは本当か?

 それでいいと言うと、前金で1000円払うよう求められた。延泊しない限り、これ以上の費用はかからないという。

部屋から廊下の様子。鍵は内鍵である

 地元民や西成での生活に慣れた労働者たちの話によると、「旅館かなめ」のような激安「500円宿」で1泊のみの宿泊は、「時期によって請けてもらえないこともある」「今は800円以上のところでなければ請けてくれない」と諸説あったが、やはり1泊のみはNGだった。1泊だけの宿泊ならば、「800円以上」と見ておいたほうがいいのかもしれない。とはいえ、激安であることは確かだ。それに1泊500円は決してウソではない。

 契約が成立となれば、名前を聞かれるのみ。それ以外は何も聞かれない。宿泊者名簿のようなものに名前や住所、電話番号の記載を求められることもない。偽名を告げても、そのまま泊めてくれそうだった。なかにはそうした人もいるのだろう。

 ここ西成は、2007年に発生した外国人女性講師殺害事件の市橋達也被告(当時28歳、現在、無期懲役刑で服役中)が、逮捕されるまでの逃亡中、潜伏していた場所としても知られる。時に、過去を問われない場所、隠れるにはうってつけの場所といわれる理由が、この一事をもってわかる。

 部屋番号を告げられて、靴は室内に持ち込むこと、外出は自由だが、夜うるさくしない…といった宿泊時の注意事項を再び聞き、部屋へと案内された。

 部屋へ行く途中、ミシッミシッと床を踏む音が鳴る。大の大人が2人歩くだけで、かなりの音が響く。これが「21時以降は静かに」と注意された最大の理由だと気づいた。

 案内された部屋は、三帖間よりもやや広めといった趣だ。だが天井が低い。身長175センチの記者が背伸びすると頭を打つ程度の高さである。ところが不思議と狭さは感じない。そこに畳敷きの1人用ベッドがふたつ置かれていた。2人までなら収容可能である。もちろん、1人での使用で契約している。後で誰か入って来て相部屋となることはないそうだ。

三畳の部屋。シミは気になるが、部屋はおおむね清潔に保たれていた

 ベッドの1つに、布団と毛布、枕の寝具一式が置かれていた。西成のドヤに備え付けられている布団や枕は、タバコとアルコールと吐しゃ物の臭いが入り混じったモノだという声も、時折耳にする。確かに寝具そのものは、かなりの年代モノだったが、臭いなどはまったくなく、よくアイロンの効いたシーツと枕カバーに包まれていたので、何ら不快感はなかった。

 空きのベッドの上には、灰皿が置かれている。今、ホテルでは全面禁煙化が進むなか、西成のドヤは、その多くが喫煙可だと言われている。だが意外にもタバコの臭いはほとんど感じなかった。快適とはいかないだろうが、ノンスモーカーでも十分過ごせるレベル。きっと消臭が施されているのだろう。部屋は寝具と同じく、年季が入ったそれだが、掃除は行き届いていた。ノミやダニ、ゴキブリもいなければ、クモの巣も張っていない。室内はまずまずの清潔さだ。