「マヌケ」という言葉は、「バカ」と混同されがちだけど、「マヌケ」という言葉を使っていたら人間関係も仕事関係も良くなっていくし、マヌケであればあるほど運はたまっていくよ!
そんな、欽ちゃんのあったかい言葉が詰まった本『マヌケのすすめ』が、発売になりました。この連載では『マヌケのすすめ』から、とくに心に響く部分を抜粋して、萩本欽一さんの言葉を紹介していきます。(撮影/榊智朗)

「大将には聞いちゃダメ」だったのに、たったひとり田中美佐子だけ聞きにきた

 番組やってるとき、ぼくは共演者に「わかんないことがあっても、ぼくに聞きにこないように」って言ってたの。だからみんな、後輩が入ってくると「大将に聞くと怒られるから、聞いちゃダメだよ」って伝えて、それが暗黙の了解になってた。

 理由はいくつかあるんだけど、ひとつは「ここはどうしてこうなんですか」「なんでこうしたんですか」って聞かれたら、コントにならない。これこれこうだからですよって説明するようなことじゃなくて、面白いかどうかだけだから。あと、何でも聞きに来ていいよって言って、本当にみんな来ちゃったら忙しくなっちゃうし、面倒くさい。

 だけど、ぼくとしては教えたくないわけじゃない。ダメって言われてるけど思い切って聞きに行ってみようってヤツが来たら、それでいいと思ってた。ダメをクリアして来るヤツに教えたら、間違いなくものになるしね。

 現にひとりだけ来たのがいて、それが田中美佐子ですよ。はっきり「すいません、教えてください」って言ってきた。まだ30歳ぐらいだったかな。女優さんとしていちばんキラキラしているときだった。だけど、これから40歳、50歳になったときに、笑いのできる女優になりたいんですって言ってたな。

 彼女の達者なコントを見て、誰かが「どうしてそんなに笑いがうまいの?」って質問したらしい。そしたら「大将に聞いたのよ」ってあっさり答えるから、相手はビックリ。「聞いちゃダメって知らないの? 誰も聞かないんだよ」って言ったら、「私、それは知ってたけど、聞いてみたら教えてくれたの。ちゃんと教えてくれるのに、なんでみんな聞かないのかなと思いながら、会うたびにいろいろ教えてもらってたの」だって。

 聞いちゃダメって知っていて、怒られるかもしれないのに「教えてください」って来た美佐子ちゃんは、言ってみればかなりのマヌケだよね。怒られ損でもいいと思ってるんだから。マヌケなところがかわいいし、偉いなと思って、ぼくも教えてあげた。

 そしたら、その話を聞いたほかのヤツらも「大将、聞いてよかったんですか?」って言い出した。人の真似して聞きに来るようなヤツに教えても、うまくはならない。それに、それはマヌケじゃなくてズルいやり方だよね。「今から来ても教えないよ」ってはっきり言った。 それでも来たらまた考えたんだけど、誰も来なかったな。

(本原稿は、萩本欽一著『マヌケのすすめ』からの抜粋です)
*撮影協力/駒澤大学