銅相場は昨秋から上昇傾向で推移し、12月にはそのピッチを速めて、1月16日には1トン当たり6343ドルと8カ月ぶりの高値を付けた。しかし、2月3日には5523ドルと高値から13%下落。その後、小幅な反発をしているが、上値は重い。

 10月は米中両政府が貿易協議で暫定的に「第1段階の合意」に達したと発表して、懸案であった貿易摩擦が解消に向かうとの観測が強まり、株式など他のリスク資産と同様に銅相場も上昇した。

 しかし、11月はトランプ米大統領が香港のデモを支援する「香港人権・民主主義法案」に署名したこともあり、貿易協議の難航が懸念された。銅の最大消費国である中国の景気のもたつきも意識されて、相場は横ばい圏だった。

 12月は米中貿易協議で第1段階の正式合意に達したことが好感され、相場は大幅上昇した。

 新年に入って、米国とイランの対立が先鋭化して下押し材料になったが、1月15日に米中貿易協議の第1段階の合意署名が行われる中、上値を追う動きとなっていた。

 だが、そこに新型コロナウイルス感染拡大の影響が及んできた。21日には、中国で25日の春節(旧正月)を前に帰省ラッシュが見込まれる中、感染拡大が懸念され、相場の下落幅が大きくなった。23日には交通機関の停止など武漢市が封鎖されたものの、相場下落は続いた。中国国務院は26日に春節休暇を2月2日まで3日延長するとした。休暇明け3日の相場は5カ月ぶりの安値を付けた。

 2月2日に中国人民銀行は公開市場操作で1.2兆元の大量資金供給を行うと発表した。当局の対策への期待から休暇明けの金融市場の混乱は限定的になり、4日以降の銅相場は持ち直した。5日にはワクチンや治療薬の報道が相場の支援材料になる場面があった。

 13日には集計方法の変更から感染者・死者数が急増したが、感染拡大ペースは減速しているとの見方が続いた。14日には、米中貿易協議の第1段階の合意が発効したが、市場の関心は新型コロナウイルスにあり、材料視されなかった。

 20日には、中国人民銀行が政策金利であるLPR(最優遇貸出金利)を引き下げた。金融緩和策に加えて、感染拡大の影響で苦境に立つ企業に対する支援策を講じるとの期待も高まっており、銅相場を下支えしている。一方で、18日には米アップルの業績が下振れの見通し、20日には韓国での感染拡大などが悪材料になった。

 銅相場は、中国政府による対策期待などから上昇に転じたものの、為替市場でのドル高や感染拡大懸念が抑制要因となる中、反発力は弱い。世界景気の先行指標とされる銅相場は、景気の先行きが楽観できないことを示唆している。

(三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部主任研究員 芥田知至)