
双葉郡の消防士たちが
初めて「あの日」について語る
あの日、あなたはどこで何をしていただろうか。
2011年3月11日、福島県双葉郡では、多くの学校で卒業式が執り行われた。子どもたちは通い慣れた校舎に名残惜しさを感じながら、未来への希望に胸を膨らませていたに違いない。だが14時46分、巨大地震がこの地を襲った。

本書『孤塁』は、双葉郡の消防士たちが初めて「あの日」について語ったノンフィクションである。震災について書かれた多くのノンフィクションの中でも出色の一冊だ。
本書の優れている点。それはプロフェッショナルの証言に基づいているところだ。私たちは現実を見ているようで、案外見ていない。事故現場の取材で目撃者に話を訊くと、「とにかく驚いた」とか「ドカーンと音がして気がついたら倒れていた」とか、目の前で起きたことを描写するのではなく、単なる感想や擬音で雰囲気だけを伝えるケースがよくある。無理もない。私たち素人は、想定外の出来事を前にすると動転してしまうのが普通だからだ。しかしプロは違う。冷静に細部を見ている。素人に比べ、プロフェッショナルの証言は、圧倒的に解像度が高い。
だから巨大地震が発生した瞬間の光景も、プロの消防士たちの証言によってくっきりと浮かび上がる(以下、消防士の年齢と所属は東日本大震災発生当時のもの。敬称略)。