自己愛がもたらす
人並み以上という幻想

 人間は誰しも自己愛を持っている。それがないと前向きに生きていけない。生きていく上で必要不可欠な自己愛だが、それが私たちの自己認知のゆがみをもたらす。

 その典型が、何らかの性質や能力に関して「自分は平均以上だ」と思い込む心理である。
統計的に考えれば、平均以上の人と平均以下の人は半分ずつ存在することになる。実際に計測すれば、平均並みの人が4~5割、平均より上と平均より下がそれぞれ2~3割程度いるといった感じになることが多い。

 だが、心理学の調査データを見ると、「自分は平均より上」と考えている人が過半数に上るのが通常である。これは統計的にあり得ないのだが、それが私たちの心の世界の真実を表している。

 たとえば、イギリスで行われた調査によれば、リーダーシップ能力に関して約70%が「自分は平均より上」とみなしており、「自分は平均より下」とみなす人は2%しかいなかった。平均より上が70%、平均より下が2%。統計的にあり得ないだけでなく、あまりに自己認知がゆがみすぎている人々の心の現実を教えてくれるデータといえる。

 運動神経が優れているかどうかは、客観的な判断が比較的容易だろう。それでも、運動能力に関して「自分は平均より上」と答えた人が60%もいて、「自分は平均より下」と答えた人は6%しかいなかった。

 さらに、人間関係能力、つまり人とうまくやっていく能力については、「自分は平均以上」という人は85%、「自分は平均以下」という人は0%。人とうまくやっていく能力については、基準が不明確な上、「あなたは人間関係力が乏しいですね」と人から言われることもないため、自己愛的な思い込みを維持しやすいのだろう。

 その他、感受性の豊かさが「自分は平均より上」という人は79%、賢さが「自分は平均より上」という人は75%というように、好ましい性質や能力について「自分は平均より上」という人の比率が50%を大きく上回っている。

 このように自分の性質や能力を実際以上に肯定的に評価する認知のゆがみのことを「ポジティブ・イリュージョン」という。それは誰もが多かれ少なかれ、心の中に抱えているものなのである。