新型コロナウイルスに紛れているが、花粉症最盛期である。
今年の話題は高額な抗体医薬が使えるようになったことだろう。
抗体医薬は、身体に侵入してきた「異物:抗原(この場合はスギ花粉)」に反応する「抗体」の働きを制御して、生体の反応をコントロールする薬を指す。
季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)の適応を取得した「オマリズマブ(遺伝子組み換え):商品名ゾレア」は、アレルギー性疾患患者の皮膚や鼻粘膜表面に存在するIgE抗体に結合し、アレルギー反応を抑えるバイオ製剤だ。すでに気管支ぜんそくや原因不明の慢性じんましんに使われている。
主な副作用は注射部位の腫れやかゆみ、痛み、頭痛などで、稀に重篤なアレルギー反応(アナフィラキシー)を起こすことがある。
重症のスギ花粉症患者を対象に行われた臨床試験では、既存薬にオマリズマブを追加投与することで、鼻や眼の症状、睡眠不足や仕事に集中できないなど日常生活の支障が有意に改善。重症度にもよるが、原則として4週間に1回の投与で済む点も魅力的だ。
ただし、先述したように高額な薬価が問題ではある。3月5日に公開された薬価を確認すると、皮下注射用75mgが1万4768円、150mgが2万9104円。改定前の薬価から38%減ではあるが、まだ高額の部類だ。
オマリズマブの投与量は体重と体内のIgE量で決まる。仮に体重80kgでIgE量が150IU/mLの成人では、1回に300mgが投与される。薬代だけで総額5万8208円、3割負担で1万7462円になる。診療費、検査費、併用薬などを考えると1カ月の自己負担は軽く2万円を超える。
行政もあまり処方を増やしたくないのが本音とみえて、処方できる医療機関を限定したほか、適応患者も「重症」「最重症」に限るなど厳格な選択基準が設けられた。
さて、花粉症は生産性など「社会的損失」の文脈で費用対効果が語られることが多い病気だ。高額の花粉症治療薬を皆保険で利用できるのは「発熱ぐらいで休むな」が常識の日本らしい話なのだろう。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)