迷走を続けた東京五輪・パラリンピックの開催は「1年程度の延期」で決着した。3月24日夜に行われた首相の安倍晋三と国際オリンピック委員会(IOC)会長のトーマス・バッハによる電話協議後、安倍が発表した。急転直下の方針転換に見えたが、IOCは早い段階から26日が予定通りの開催の是非を判断する“最終期限”としていたようだ。同日は国内の聖火リレーが始まる日だった。日本のIOC関係者はこう語っていた。
「聖火リレーは五輪の理念と伝統の象徴で、それを途中で止めることはあり得ない。その前に判断があるだろう」
そのギリギリのタイミングで両者は大きくかじを切った。延期理由について、安倍は新型コロナウイルスの感染拡大の中で「選手や観客への配慮」を強調したが、もう一つ隠された理由があるとみるべきだろう。来年9月に自民党総裁としての任期切れを迎える前の開催へのこだわりだ。会談後に行われた安倍のインタビューにその思いがにじんだ。
「遅くとも2021年夏までの開催で合意した」
ただしコロナウイルスの感染拡大が1年後に終息している保証はない。「1年程度の延期」はあくまでも暫定的な合意でしかない。2度目の延期は考えられないとすれば、どんな結末を迎えようとも「TOKYO2020」は安倍で終わる。五輪延期の報に自民党の選対幹部は思わず口走った。
「これで安倍首相の下での衆院解散はなくなったのではないか」
大きく変わる選考基準
高い支持得るのは石破
パラリンピックの競技日程まで含めると、今から来年9月までは大きな政治空白が生まれる。しかし、感染拡大を巡って「瀬戸際の状態」(安倍)が続く中で、いつ緊急事態宣言が発動されないとも限らない。むしろ専門家の間では厳しい認識が示されており、とても衆院選挙を行えるような状況になるとは思えない。自民党の長老も同じ見方を示す。
「来年の延長五輪後まで政治は真空地帯に入る。進まず、後退せず」
その結果、来年9月に迎える安倍の自民党総裁としての任期と10月21日が満了の衆院議員の任期がほぼ重なる。この流れは安倍の「五輪花道論」につながる。自民党幹部も同じ見方だ。
「首相はコロナを克服して五輪も終えれば、退陣に向かうだろう」
つまり次の自民党総裁選は就任直後に事実上の任期満了選挙の先頭に立つ「選挙の顔」を選ぶことになる。これは従来のポスト安倍の“選考基準”が大きく変わることを意味する。党内の派閥力学を超えた議員心理の軸が動く。
「選挙に勝てるのは誰か」──。
01年4月のポスト森喜朗を争う総裁選では、国会議員の勢力で圧倒的に優位だった元首相の橋本龍太郎が、「自民党をぶっ壊す」と声を張り上げた小泉純一郎に惨敗した。その点ではポスト安倍で取り沙汰される顔触れのうち、最も高い支持を得るのは元自民党幹事長の石破茂だろう。安倍の支援を取り付けたとされる自民党政調会長の岸田文雄は依然として低迷する。自民党選対幹部はこんなエピソードを披露してくれた。