室岡さんによると、同じ09年入社の同期は140人中100人以上がまだ物産に残っている。だが2、3年以上年次が下の社員になると、より多くの社員が辞めているという。その原因として、中堅以上の社員との世代間ギャップがあると室岡さんは考えている。

スマホは中高生から当たり前の若手が見ている世界
ロールモデルは社外の同世代に見いだす

 30代前半なら、子供のころからインターネット環境は当たり前。とりわけ20代は、中高生の頃からスマートフォンを使う。単にデジタル機器に慣れているというだけではない。デジタル技術の発達は若者に、従来にはなかったビジネスチャンスを生み出したし、そこで成功した若者の生き方を、インターネットを通じて知ることができるようになった。ビジネスパーソンとしてのロールモデルを家族や会社の先輩、上司だけでなく、社外に見つけるのがむしろ普通になったのだ。

 一方で総合商社では、若手の間は「10年は下働きだ」と言われ、35歳前後で「若手研修」が開催されたりする。若手が違和感を持つのは当然だということだ。

 14年に物産に入社したが、1年半勤めて15年に退社。メタップスを経て、海洋データから養殖に必要なデータを提供するウミトロンの創業メンバーで同社マネージング・ダイレクターの山田雅彦さんは、ちょうど30歳だ。

 九州大学大学院でエネルギー関連の研究をしていた山田さんは、電力を巡る問題をファイナンス面から考える知識を身に付けたいと商社を志望。物産の採用面接では「電力部門に入れなかったら内定を辞退する」と訴え、入社後に幸運にも電力部門に配属。世界の電力事業の管理や、オーストラリアの電力事業を担当した。

退社は思い切った決断ではなかった
テクノロジーの潮流の変化に自然に対応

山田雅彦データサイエンスへの関心が高まり、転職は自然な判断だったと振り返る山田さん

 山田さんは、会社の文化や習慣、人間関係が嫌だとは思わなかった。大学では学べなかった経理や財務、税務、契約書の作り方などビジネスの基礎を学ぶことができたと感じた。同時に、就職活動の際に考えていた電力事業の技術面だけではなくビジネス面での知見も身に付いたと感じた。

 ただ、大胆に進むテクノロジーの変化が気になった。配車サービスのUberや民泊仲介サービスのエアビーアンドビーなどの海外の新興企業は、自ら資産を持たずにビッグデータを収集してビジネスを展開している。既存の電力業界では発電プラントなど巨大な資産に投資することが前提だが、これからは変わるかもしれない。機械学習や人工知能(AI)を電力ビジネスに生かせるかもしれないと、AIを手掛けるメタップスに転じた。

 退社する際、物産からは名古屋市の中部支社への転勤を内示されていた。地方の支社ならば若手でもより大きな裁量を持って仕事ができるという会社側の配慮と感じたが、AIへの関心の方が勝っていた。学生時代の学問とは異なる分野で、この機を逃したくないと感じた。「自分の中では、思い切った決断というよりも、次を見て自然に会社を辞めたという感じだ」と山田さんは振り返る。

 ただ、電力事業それ自体がドメスティックな側面が強く、山田さんの関心は漁業に移った。海外では大手企業が魚介類の大規模な養殖を手掛けている。人工衛星による海面データの活用は進んでおらず、16年からウミトロンのビジネスに携わり、17年にこちらに移った。

 山田さんは、総合商社は資金の出し手という側面が強く、ウミトロンのようなデータサイエンスを使ってサービスを提供するビジネスはやれないと感じていた。それを否定的に捉えているのではなく、「むしろ商社は、商社にしかできないビジネスをやるべきではないか」と考えている。