認知症の人に説得が通らない理由

認知症の方が「家に帰りたい」「〇〇に行く!」と訴えられた時、家族は「今は自粛中だから……」と説明したり「次に病院に行く日は●曜日よ」と正しい情報を伝え、説得しようとします。
時には、「〇時になったら家に帰れますよ」と、時間稼ぎの声かけをされることもあります。

けれども、多くの場合、それはうまくいきません。なぜなら、本人の中には「正当な理由と思い」があるからです

認知症の症状と聞くと、「昔のことは思い出せても、ついさっきのことが思い出せない」といった、記憶についての症状をイメージされる方も多いでしょう。けれども、認知症の症状は、ふと浮かんだことが頭から離れなくなり、他のことに意識が向けにくくなるのも大きな特徴です。

健康な人でも、不安なことや気がかりなことがあると、頭がいっぱいになって気持ちの切り替えが難しくなります。例えば、新型ウイルスの感染症が気になって、ニュースを目で追い続けたり、不安な情報を検索し続けてしまうことがありますよね。

認知症の症状は、それがさらに強くなります。

自宅にいる時、記憶がふとぼんやりして「ここは、どこなのかしら?」と感じた瞬間にその思いから離れられなくなり「早く家に帰らなければ!」と、焦りや不安でいっぱいになります。実際は自宅にいるにもかかわらず、一度感じた不安だけがどんどん増殖していって、やがて恐怖になり「なんで家に帰してくれないの!」と周りへの激怒にまでつながってしまいます。

さらに、老化によって脳の機能も低下しています。何かしたいと思った時に抑制が効かない(我慢ができない)状態になり、説得すればするほど、「なぜわかってくれないんだ!」と興奮状態になることも少なくありません。

家族や介護者も、普段はそのことを十分理解しています。相手の目を見て話す、優しく手を触れてから話すなど、いろいろな工夫をしながら、否定せずに共感的に関わろうと頑張っていらっしゃいます。

確かに、周りの人の関わり方が、認知症の人の安心感を取り戻すきっかけになることもあります。けれども、不安をゼロにすることはできません。体調や天候や外界の刺激など、不安を呼び起こすきっかけもたくさんあるからです。

数分おきに何度も同じことを言われ続ければ、苛立ちが募って当然です。介護のプロであっても思わず怒鳴ってしまいそうになるものです。また、「自分自身の心に余裕がなく、不安状態を受け入れられない」との率直なお声も届いています。

「何度も同じことを言われて、もう辛い」と感じているとき、心に余裕がないときに、是非試していただきたいことがあります