中国の通信機器大手ファーウェイは、類いまれな学習能力で次々と先行企業にキャッチアップしてきた。この企業が、ソニーに特段の熱視線を向けている。特集『半導体の地政学』(全8回)の#1では、巨大企業の知られざる野望と、米中関係の複雑な連立方程式を読み解く。(ダイヤモンド編集部副編集長 杉本りうこ)
ソニー・マイクロソフトの蜜月に
ファーウェイは穏やかではない
「ソニーの革新的な技術と、マイクロソフトが強みとするクラウドAIを連携することで、強力で便利なスマートカメラ市場のプラットフォームを提供する」(ソニーの清水照士常務)。ソニーと米マイクロソフトは5月19日、法人向けのAI(人工知能)スマートカメラ事業での協業を発表した。この事業で使われる重要製品が、ソニーが世界で初めて実現したAI搭載のCMOSイメージセンサー(画像半導体)だ。
イメージセンサーは従来、主にスマートフォンやデジタルカメラに使われてきた。今回ソニーが開発・製品化したのは、高性能のイメージセンサーと画像をAI処理する半導体を積み重ねた小さなパッケージだ。
イメージセンサーを開発・生産する企業は他にもある。その中でソニーがいち早くAI機能を搭載できた要因は、半導体を立体的に積み上げる「積層化技術」が大きい。ソニーは2012年に積層型CMOSイメージセンサーを世界で初めて商品化した。積層化によって高画質・高機能化と小型化が同時に実現できるようになり、韓国サムスン電子など競合も追随して積層化を進めた。近年、iPhoneのようなスマホのカメラが飛躍的に進歩した陰には、ソニーの技術があったのだ。
そもそもイメージセンサー自体、ソニーが切り開いてきた半導体だ。1980年、世界で初めてカラーのCCDイメージセンサーを商品化。以来、技術力と市場シェアの双方で他社を圧倒してきた。今回のAI搭載半導体は、イメージセンサーの研究開始から50年かけて蓄積した技術とノウハウを凝縮した、一つの「結晶」である。
この結晶を、マイクロソフトとの協業で法人向けのスマートカメラサービスとして世界に売り込む。今回のAI搭載イメージセンサーを使えば、小売店の商品棚の欠品状況や、工場の生産ラインの運転状況を自動検知するようなAI処理が、瞬時にかつ従来より低消費電力・低コストでできるようになるという。
この日米巨大企業の半導体を巡る協業を聞き、人知れず穏やかでない心持ちになったのではないか――中国のハイテクガリバー、ファーウェイ(華為技術)のことだ。