参加者に終着駅を知らせないイベント列車「ミステリートレイン」が日本で初めて運行されたのが、約90年前の6月12日。日本初のミステリートレインは果たしてどのようなルートをたどったのだろうか。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)
イギリスの鉄道が
運行のきっかけ
ミステリートレインというイベント列車がある。乗客は終着駅を知らされずに列車に乗り込み、列車は普段は旅客列車が直通しない路線や、営業には使われない連絡線などさまざまな線路に乗り入れて進んでいく。乗客は走行ルートから目的地を推理しながら旅を楽しむという趣向の列車である。
新型コロナウイルスをめぐる昨今の情勢は、まるで終着地の見えないミステリートレインのようであるが、それはともかくとして、6月12日は日本で初めてミステリートレインが運行された日であった。
世界初のミステリートレインは1932年3月、イギリスのグレート・ウェスタン鉄道が運行した「ハイカーズ・ミステリー・エクスプレス」号といわれている。
これをイギリスに滞在中だった東京日日新聞(現在の毎日新聞)の記者が見て興味を持ち、帰国後に国鉄を運営していた鉄道省の関係者に話したところ、これは面白いと大いに盛り上がり、2カ月後の1932年6月12日、鉄道省と東京日日新聞のタイアップ企画として日本初のミステリートレインが運行されることになった。