――軍隊のマネジメント手法を企業に応用したものは英国海兵隊式の他にも、米国海兵隊式などがありました。これらとはどのように違うのでしょうか。

 米国式と対比すると、米は物量と最新兵器が得意な軍隊です。過去の戦争でも物量の投入ができて、最新兵器を使えたときは勝ってきました。そのとき、兵士は上官に言われた通りにやればいい。これは会社でもそうですよね。例えば新商品を売り込むとき、圧倒的な営業担当者の数や予算があって、最新の機能がある新商品であれば、勝てます。

 英国はそうではありませんでした。第2次世界大戦でドイツ軍が欧州大陸を制覇した時、英国軍は兵器も物資もほとんど捨てて、英国まで逃げ帰ってきた。

 一方、ドイツ軍はフランスまで勢力を広げて、英国の眼前まで攻めてきていた。しかし、英国軍には物量がない。そこで、当時のウィンストン・チャーチル首相は、ドイツ軍の陣地に忍び込み、かく乱させる作戦を行った。これが正規の軍がゲリラ戦を行った初めてのケースだったといわれています。

 そして第2次世界大戦後、英国は北アイルランド紛争を戦います。このとき、ロンドンの街中でもテロが起こっていました。敵はどこにいるか分からない、その中で市街戦を戦わなくてはならなかった。

 このとき生きたのが、第2次世界大戦でゲリラ戦をくぐり抜けた経験でした。ドイツ軍の領地に潜入し、敵の動きや先の状況が読めない中で、目的を達成するという力が役立ったのです。

 上官は最前線の兵士をどうマネジメントすべきか。部下を死なせず、戦いに勝つにはどうしたらいいのか。死の恐怖と隣り合わせの部下のモチベーションをどう維持すればいいのか。そういったことが英国軍で研究が進み、ミッションコマンドが確立されていったのです。今でもそれらはアフガニスタンやイラクでのテロとの戦いで生きています。

テレワークにも有効な
ミンションリーダーシップ

――テレワークが進んで、社員同士が顔を合わせる機会がない中で事業を進めなくてはならないとき、ミッションリーダーシップが役立ちそうです。

 そうですね。テレワークで仕事を進める上で、ミッションリーダーシップは重要です。当社のお客さまに話を伺うと、ミッションリーダーシップのおかげで、テレワークでも全く問題は起こっていないのだそうです。

 もちろん、いろいろな仕事上の不便や誤解などはあるようですが、テレワークだからうまくいかなかった、ということではなく、ミッションや制約が明確になっていなかったから、うまくいかなかったと考えているようです。

 テレワークだからこそ、ミッションの簡潔化と制約の明確化は求められているのです。

――明日からミッションリーダーシップを実践しようとしたとき、何からやればいいのでしょうか。

 いろいろありますが、まず20文字でミッションを書いてみてください。いろいろなワークショップでこれをやりますが、大体20文字を超えてしまうと、そのミッションの理解度は落ちてしまいます。

 大体、長くなりますね。箇条書きで書こうとしても、長いことがほとんど。20文字以上のミッションを発表して、30秒後に何が書いてあったか聞いても、ほとんどが覚えていません。

 それは職場の部下も同じです。日々の業務の中で、長いミッションを常に頭の中に置いておくのは難しい。

 ダミアンはコソボやイラク、アフガニスタンの戦場で、多国籍軍の一員として従軍していました。そのとき、指示は英語で伝えられるのですが、現地の通訳を介して、現地の警察や宗教指導者にも指示の内容が伝えられます。そのとき、間違った内容が伝われば反発を生みます。そうなれば、作戦がうまくいかず、戦場で部下の死につながる危険性があります。

 できるだけ簡潔に、誰でも分かりやすい言葉にすることが重要です。「複雑表現は誤訳につながる。誤訳は誤解を生む。誤解は死につながる」というダミアンの言葉には、そんな従軍経験があるのです。

岩本仁/ブーズ・アレン&ハミルトンを経て、シック米国本社グローバルビジネスディレクター、シック・アジア太平洋担当VP兼シックジャパン社長、MHDディアジオ・モエ・ヘネシー社長兼CEO等、15年に渡り経営最前線を指揮。2008年10月より現職。グローバル企業の組織変革のプロフェッショナルとして、特にM&A後、JV等、複雑な組織のマネジメントに精通。