台風などの自然災害では、補償対応で大きな存在感を示した損害保険業界。一方で、コロナ禍の対応を巡っては影が薄く、監督当局の金融庁からその存在意義を問われ始めている。特集『保険会社vs金融庁』(全8回)の#1では、損保各社と金融庁による激突の全内幕に迫る。(ダイヤモンド編集部 中村正毅)
補償拡大に右往左往で総スカン
問われる損保の存在意義
「今回の改定対応にとどまらず、今後とも契約者などの要望や社会のニーズに応えるべく、継続的な検討をお願いしたい」
6月11日。監督官庁の金融庁から、損害保険各社に発出されたメッセージには、コロナ禍を巡る業界の姿勢に対して、不満がにじみ出ていた。
感染拡大によって3月以降、コンサートなどのイベントが軒並み中止になり、政府の緊急事態宣言によって多くの商業施設や店舗が自主休業を迫られる「国難」の状況で、損保各社の影が薄い状態が続いてしまったからだ。
コロナ禍に伴う損失補償に、消極姿勢を徹底して貫いた損保各社に対して、不満で済んでいればよかったが、その舞台裏を探ってみると、金融庁と補償を巡って激しく衝突し、不興を買っていた様子が見えてくる。
4月上旬。東京・霞が関の中央合同庁舎第7号館に呼び出された大手損保4社の担当者たちは、一つの「妥協案」を金融庁に提示していた。
店舗の休業損害などを補償する保険で、従業員や来店者がコロナに感染し休業を余儀なくされた場合は、事業者に20万円の一時金(見舞金)を特別措置として支払うというものだ。
「われわれとしては、約款を超えた対応をすることになる。東日本大震災のときにも、ここまでの対応はしていない。仮に損失が膨らめば、株主代表訴訟を起こされるリスクが出てくる」
大手損保の担当者の一人がそう説明したとき、正面に座っていた金融庁職員の顔色が一変した。