すべての絶滅が「悲劇」ではない

――となると、絶滅って悲しい出来事なんですよね?

  今泉 絶滅って、悲劇のようでもあり、喜劇のようでもあると思うんですよ。

はじめにお話ししたように、人間が関わった「人為絶滅」では、次の進化した動物を生み出しません。だから、確かにこの絶滅は、悲しい出来事です。

でも地球のせいで起きる「自然絶滅」は、けして悲しいことばかりではありません。

地球に存在する空気や水、土といった資源には限りがあるので、生き物が無限に増え続けることはできません。

たとえるなら、私たち生き物は、地球全体で椅子取りゲームをしているようなもの。

恐竜が絶滅しなければ椅子は空かなかったのだから、私たち人間は生まれていません。

滅んだ方は愉快ではないと思いますが、絶滅がなければ、私たちは今、ここに存在しないのです。

そういう視点から見れば、これまで起きた自然の絶滅は、今いる生き物たちにとっては愉快な喜劇だったと言えるでしょう。

ただし、近年の「人為絶滅」の増加によって、科学者たちは生き物がどんどん減っていることに気づいています。人間も生き物の一部なので、生き物が減っていく地球上には、人間も住めなくなってしまうかもしれないーーー科学者たちはそう考えるようになってきています。

愉快な絶滅のおかげで今、私たちはこうして生きていられるけれど、私たち人間の手による悲しい絶滅が今後もっと増えたら、私たち自身も滅ぼしてしまうかもしれない。

それは、人類にとっての悲劇ですよね。

――そうすると今、地球はどんな状況なのでしょうか?

今泉 さっき、地球には多様な生き物がいて、それらが手をつなぎ合って、木目の細かい網をつくって地球全体を守っている、という話をしましたよね。

そこに穴が空くと、地球にほころびが出てくるのだ、と。

では、穴が空くということがなぜ問題なのか、もう少し具体的に説明しましょう。

地球上にいる生き物は全て、ほかの生き物と互いに関わり合いながら生きており、生き物たちとそれらが生きる自然環境をあわせて「生態系」といいます。

生態系では、植物や植物プランクトンが太陽光からエネルギーを取り込み、さらに小型の動物から、中型、大型の動物へと「食う・食われる」の関係を通してエネルギーが伝えられます。

生態系の中で、植物や植物プランクトンは第一栄養段階、それを食べる小型の動物は第二栄養段階、さらにそれを食べる動物は第三栄養段階…とされ、栄養段階が高くなるほど数が少なくなることから、こうした生態系の構造はピラミッドに例えられます。

ところが、人間が自分たちの都合のいいように生き物を取ると、このピラミッドのバランスが崩れてしまい、他の生き物にも影響が出ます。

ある特定の生き物が減りすぎたり、あるいはそれによって増えすぎたりすることは、このピラミッドの上下の生き物にも連鎖して起きるので、地球環境に一層の歪みをもたらします。

たった一種類が絶滅することで、たくさんの生き物や、それらを取り巻く環境がガラリと変わってしまうのです。

けれども、その小さな穴が1つ、2つと見つかるうちに一人ひとりの意識を変えられたら、この歪みを直すのに今ならまだギリギリ間に合うと思うのです。