地球は「生き物の多様性」によって守られている

――そもそも「絶滅」って、どういうことですか?

今泉 一つの種(しゅ)、あるいはグループが、地球上から永遠に姿を消すことです。

今、世界には、わかっているだけで190万種、未知のものも含めると、数千万種とも数億万種とも言われるくらい、多くの生き物がいます。僕ら人間もその種のひとつです。分類学者と呼ばれる人たちが世界中で地球上の種を探検して調べていますが、今なお、新しい種が次々と見つかっています。生き物の世界では、まだよくわかっていないことがとても多いのです。

この地球上で、種というのは「食う・食われる」という関係で、互いにつながっています。地球上に生きている、まだ見つかっていないものも含めてものすごくたくさんの種が、腕を出して隣と手を繋ぎ、地球全体を覆う網をつくっているイメージです。この網目はとても細かく、地球をすっぽりと覆って守ってくれています。こうした状態が、いわゆる生き物の「多様性」と呼ばれるものです。

ところが、種が絶滅すると、そこにぽつんと穴があきます。穴がまだ小さなうちは、近くにいる他の種と手を引っ張りあってなんとか穴を防ごうとしますが、穴が少しずつ大きくなってくると、そこの環境は残念ながらもう手の施しようがない。草もない、ただの荒地になってしまい、生き物が暮らせなくなるからです。

穴が大きくなったほころびをなんとか修復しようと、荒地になったところに一生懸命、木や植物を植えようとしている人たちもいるけれど、自然に復活をまかせたら、途方もない時間がかかります。

つまり、絶滅とは、地球を覆って守ってくれている、ものすごく多様な生き物同士が手を繋ぎ合ってつくっているきめ細やかな網に穴が空いてしまうこと。その穴がどんどん大きくなるにつれて地球は危なくなるんだよ、というイメージで説明すると、子どもでもわかりやすいんじゃないかな。

生き物の世界には「強い」も「弱い」もない

――生き物はなぜ、絶滅するのですか?

今泉 地球に生き物が生まれてからずっと、その時代の気候や住んでいる場所などに適しているものが威張って暮らし、あまり適していないものはひっそりと生きてきました。

でも、地球上に隕石が落ちてきたり、火山が噴火したりして、大きな環境の変化が起きると、それまで威張っていた生き物ほどコロッと姿を消してしまい、ひっそりと生きていたものが意外にしぶとく生き残る。そんなことが繰り返し、起きてきました。

そもそも、40億年前に生き物らしきものが確認されたとき、酸素はそれらにとっては「猛毒」でした。できたばかりの海は100度を超える熱湯で、鉄を溶かすような強酸性。そんな世界で、生き物たちが生きていくために必要だったのは、酸素ではなく硫黄でした。

 ところが、藍藻類が現れて酸素を作り始めると、徐々に地球上に、その当時は毒ガスだった酸素が溜まっていき、多くの生き物が滅びました。代わって、酸素で繁栄する生き物の種類が、一気に増えていったのです。

このように、「強い」「弱い」は、環境によって大きく変わります。

その後も、例えば3万9000年前に絶滅したエラスモテリウムという大きなサイは、草原の草ばかり食べて巨大化したのですが、気候の変化で地球が寒くなって草原が縮小すると、他の植物を食べられずに絶滅しました。

動物学者が「今こそ『絶滅』を学ぶべき」と語る理由

結局のところ、どんな生き物が生き残るかなんて、誰にもわかりません。今まで地球に生まれた生き物は数え切れないくらいたくさんいますが、その99.9%が絶滅しているんだから。

つまり、ほぼ全ての生き物が滅んでいるということなのです。