怪しい主張(4)
デジタル化が進む中、日本の製造業は時代遅れになっている。

 たしかに、いまの世の中は、デジタル化の話で持ち切りです。その盟主として、いわゆるGAFAなど、アメリカ発のプラットフォーマーが、さまざまな面で耳目を集めているのはご承知の通りです。

 中国も、国としては情報鎖国の傾向がありますが、10億人超という巨大な人口を背景に、BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)などが急成長し、巨大プラットフォーマー化しつつあります。たとえばテンセントは、いまのところ国内市場に90%以上依存し、ほとんどグローバル化していませんが、中国版LINEといわれるWeChat(ウィチャット)のユーザーはそれでも10億人に達します。たかだか1億人強という日本の人口規模では考えられない現象です。

 こうした中、なぜ日本にはグローバルなプラットフォーム盟主企業が現れないのか、日本発の巨大プラットフォーマーが存在しないから日本経済が停滞しているのではないか、といった類の「デジタル化時代の日本悲観論」もよく聞かれます。たしかに時価総額で見ても、GAFAやBATなどプラットフォーマーの経済力は強大です。うらやましく見えるのはわかりますし、こうしたグローバルなプラットフォーム盟主企業が、いずれは日本からも生まれたらいいな、と私も思っています。

 しかし、「GAFAがうらやましいので、日本でもイノベーションをやってプラットフォーマーをつくろう」と抽象的に言い募るだけで、何か生まれてくるわけではありません。それぞれの国は、背負っている歴史や文化、地理的条件、経済的条件が異なります。

 戦略論の基本は、うらやましいからといって単に模倣することではなく、みずからの強みを最大限に活かして独自の事業を創造することです。日本企業は、「何だったら勝てるか」「どうすれば勝てるか」「他国にない強みは何か」など、戦略論の基本に立ち返って次の手を考えるべきでしょう。

 そのための出発点として、私は、図表「上空・低空・地上」のように、3層構造でデジタル化の現状を見ています。すなわち、今日の産業を、(1)質量がなく、オープンな設計思想に立脚し、アメリカ発のプラットフォーマーが支配する「上空」、(2)上空と地上とを連結するインターフェースとしての「低空」、(3)従来型の製造業が質量のある物財で製品競争を繰り広げる「地上」の3層に分けて考えています。各層で競争のやり方が違うというのが、この図表のポイントです。

 

 この3層モデルにおいて、日本企業は「地上」に集中しており、多くはまだまだ強い国際競争力を維持していますが、その一方で、アメリカのプラットフォーム盟主企業に「上空」の“制空権”を握られ、また「低空」では、シーメンスなどのドイツ企業に先行されているのが大きな課題です。こうした現状を正確に認識したうえで、具体的な対応策を考えることが必要です。

 その点、日本のデジタル悲観論は、「上空」のネットワーク力のすごさを意識するあまり、物理法則が作用する「地上」のものづくりのある部分がいかに複雑で、模倣困難であるかを軽視しています。実際には、日本の一部の先進企業や多くの優良現場が「地上」での存在感を残しているからこそ、それを起点として「上空」のプラットフォーマーとつながり、その成長力を取り込むこともできるし、急展開する「低空」での戦いに挑むこともできるのです。