- パナソニックの「津賀改革」には、いくつかの特徴がある。ほぼ6カ月単位で勝負をかけメリハリをつけていること。インパクトのあるメッセージを常に意識して打ち込むこと。しかも、それらは時代と世界への観察をもとに、「構図」を描き、シンプルなキーワードで発信されている。さらに、朝令暮改を恐れず物怖じしない。それでいて、基軸はぶれない。2014年度には、中期計画の営業利益3500億円以上と累計キャッシュフロー6000億円以上を前倒しで達成。2018年度(創立100周年)の売上げ10兆円は撤回したが、今期中に先行投資による「意思を込めた減益」でB2B事業の礎を固めるという注。“群盲象を撫でる”ような巨大企業の経営改革を、いかにして達成し、「未知なる未来を創造」するのか。その核心を語ってもらった。
- 注)パナソニックは、コンシューマー市場向けのB2C事業のイメージが強いが、津賀社長はコモディティ化した家電から、同社が蓄積してきた技術や知財を活用したB2Bの事業領域に「成長戦略」の舵を切った。
「事業で儲けるにはどうすればいいか」を
工学的アプローチで考える
編集部(以下青文字):津賀さんは、いかにインパクトのあるメッセージを発信していくかを常に意識されているようです。最近の例で言えば、売上げ10兆円の目標をさっさと撤回された。私はそこに重要なメッセージが込められていると見ました。つまり、「願望に基づく経営はやらない」ということです。現実ときちんと向き合い、社内外に正しく伝え、次のテーマに切り換えていくということですよね。津賀さんのそういうビヘイビアは、どういう体験から生まれてきたのでしょうか。
津賀(以下略):もともと私は、R&D(研究開発)の出身で理科系の人間ですから、物事をできるだけシンプルにモデル化したい、というところがあります。難しいものを難しいまま、複雑なものを複雑なままでは、経営できない。モデル化しないと納得できない、そうしないと自分が納得できないのです。シンプルにするには、いかにモデル化して、メッセージをつくっていくか。
津賀さんは大阪大学の基礎工学部で生物工学を学ばれた。「工学的アプローチで生命について調べる」と。
そういう思いで入ったんですが(笑)、遊ぶだけ遊んで、結婚も決まって、大学院にも行かずに就職しました。
その工学的アプローチが、津賀さんの方法論になっているのではないですか。
それしかないですね。正直言って、社長になるとは思っていませんでしたが、なったからには自分の特徴を活かして、この役目をまっとうする。自分の得意な方法でやって、ダメならしかたがない。ある意味、もう最初から開き直りですよ(笑)。社長になった時は業績も非常に悪かったですし、それまで会社全体のことなど、考えたこともなかった。
マネジャーとして津賀さんが目覚めたのは、30代後半のDVD開発の頃ですか。
そうですね。DVDは、技術開発、規格競争までは非常にうまく運んだと思います。ところが、事業としてはなかなかうまくいかなかった。新しい技術をつくって、VTR(ビデオ)の成功を、もう一度新しい技術でやろうとしたんですけどね。ハリウッドはDVDで儲かったのですが、我々は本来のレコーダーやプレーヤー、ディスクではなかなか儲からなかった。これにはかなり衝撃を受けました。技術でいいものをつくっても、事業で儲けるという構図とは違うんだ、ということを学びました。
事業で儲けるにはどうすればいいか、と今度は工学的アプローチで考えたのですね。
別の言い方をすれば、事業で儲からない理由は、割と単純に答えを出すことはできるのです。ただ、どうすれば儲かるかをモデル化するのは、まず無理です。
この構図だから儲からない、と言うのはたやすい。儲けている事業に対して、いま儲かっているけれど5年後にはアカンな、ぐらいは言えます。儲かっていない事業も、この構図だから儲からない、他のことをやったほうがいいよね、とは言えます。事業というのはなかなか難しいですから、私のような人間が言えるのはその程度のことです。