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多面的、長期的な取り組みで
優位性を構築する

 中期経営計画では、マテリアルとヘルスケアを2本柱に、ITがそれらを支える姿にしていこうとされていますね。

 ITはすべてに関わりがあるものと言っても過言ではありません。マテリアル、ヘルスケアの両事業、そしてマネジメントシステムのほうでも、ICTやAIをうまく駆使していかないとやっていけない。ITは、帝人の事業でもありますし、重要なビジネスのインフラでもあると考えています。

 帝人グループには、事業としてのITとしてインフォコムという上場企業があり、「めちゃコミック」という電子コミックサイトなども展開しています。インフォコムは独立色を打ち出し、のびのびとやっており、事業の状況はいい方向に回っています。名前も異なりますし、帝人の会社とは思えないのでは。

 ヘルスケア事業で、帝人の優位性はどこにあるのですか。

 帝人の医薬事業はスペシャリティの新薬創生型事業で、R&Dとセールス・アンド・マーケティングをフルパッケージで持っています。そのことは、ある意味強みであり、弱みでもあります。メガファーマでないことは明白ですので、さあ、これからどうするのか、という状況です。

 ここ5年ぐらいで、日本の薬価制度は大きく変わり、新薬を出せない新薬メーカーは生きていけない。新薬メーカーとしてやっていくのであれば、新薬をつくり続けなければなりません。

 一方、帝人のヘルスケア事業には酸素濃縮装置などによる在宅医療ビジネスがあります。この領域において日本のリーディングカンパニーである帝人は、極めてユニークな事業展開をしており、一般的には製薬メーカーが持ちえない、患者さんとじかに接する手段を持っていることになりますし、コメディカルと呼ばれる、医師以外の医療サービス関係者との接点もあります。

 製薬だけのメーカーでしたら、私はいま頃、暗い顔をしていたかもしれません。新薬の特許が切れた後、ジェネリック医薬品の台頭によって売上げが激減するパテント・クリフに苦しめられますからね。

 帝人は、高齢化社会において重要となる地域ネットワーク型医療のインフラをすでに持っていますので、欠けている部分をどう補っていくかがいまの課題です。マテリアルとヘルスケアが融合した埋め込み型の医療機器である人工関節や脊椎インプラントなどが拡大していくことも大いに期待しています。

 また、細胞再生医療にも注目しており、現在、脳梗塞関連でいろいろな共同開発を進めています。帝人は脳梗塞などの治療を総合的にとらえており、リハビリ用の機器も手掛けているほか、神経が痙縮(けいしゅく)して突っ張るようになった場合、それを弛緩させる薬の開発も行っています。さらに、介護ビジネスにも乗り出しています。

 多面的、戦略的に取り組んでいるのですね。

 インフォコムが「介護丸ごとIT!」という地域包括ケアサービスを展開し、介護事業と医療事務事業を行うソラストに出資するなど、さまざまなサービスの拡充を模索しています。また、帝人ファーマでは、患者情報多職種連携共有システム「バイタルリンク」を展開しており、地域の患者さんを中心とした医療情報をつなぐITネットワークを自治体などに提供しています。

 既存のヘルスケア事業は公的保険の適用内で展開していますが、社内では公的保険を前提とするだけではダメだと話しています。日本だけでなく、どこの国でも同様です。高齢化が進む中で、比較的豊かな人たちは健康のために自費診療にお金を使い、あるいはプライベート保険でカバーするサービスなどを求めるはずですから。

写真を拡大 【図表3】問題の解決に貢献し、イノベーションし続ける企業に