2017年8月、KDDIは、「ソラコム」という設立2年半足らずのスタートアップ企業を買収することを発表した。その買収価格は200億円(推定)といわれているが、大手企業がこのような破格の金額でベンチャー企業を買収するのは、日本では珍しい。
この一件で一躍脚光を浴びることになったソラコムは、「世界中のヒトとモノをつなげ、共鳴する社会へ」というビジョンの下、IoT向け通信プラットフォーム「SORACOM」をグローバルに提供しており、同社の格安SIMカードを購入すれば、誰でもIoTビジネスを立ち上げることができる。
創業者の玉川憲氏いわく、「イノベーションを起こしたいという人に、翼を与えるビジネスがしたかった。そのために、IoTにおける通信のコンピューティング・デモクラシー(民主化)に挑戦したのです」。
実は、ソラコムの魅力や可能性(ポテンシャル)は、そのビジネスモデルに限らない。人間の知識や創造性が新たな価値を生み出すポスト資本主義社会において、その適応に遅れてしまった日本にとっては、ソラコムのマネジメントスタイル、組織文化や組織構造に学ぶところが少なくない。また、企業内ベンチャーやオープンイノベーション、さらにはコーポレート・ベンチャー・キャピタルのあり方を考えるうえでも、大いに参考になることだろう。
IoTのインパクトは
インターネットの登場に匹敵する
編集部(以下青文字):ソラコムはグローバルなIoTプラットフォーマーですが、そのビジネスモデルについて教えてください。
玉川(以下略):IoTは、ご承知の通り、あらゆるモノが通信機能を備え、人間が介在することなくネットワークでつながることです。最近では、「IoE」(Internet of Everything)といわれることもありますね。
このように、ありとあらゆるものがインターネットにつながれば、言うまでもなく、これまで以上に便利になり、新しい製品やサービスが生まれてくるはずです。これを支えるのがIoTです。そのインパクトはインターネットの登場に匹敵するもので、将来性も同じく無限大といえるのではないでしょうか。
1994年――私が大学に入った年です――にインターネット技術が標準化され、誰でもインターネットに情報を発信したり閲覧したりできるネットワーク環境が整いました。それから20余年経ちましたが、振り返ってみると、その後に小さなコンピュータであるスマホが開発され、動画を投稿できるユーチューブが生まれ、ツイッターやフェイスブックといったSNSが普及し、6人たどれば世界中の人とつながることができる――そんな世界に変わりました。インターネットはグローバルに広がり、さまざまな技術やビジネスを生み出してきました。誰も予測できなかったことです。
そして、これまでつながっていなかったモノとモノの間、そしてモノとインターネットの間がつながるIoTが登場したわけです。身近な例で言えば、スマホを使って家電を遠隔操作するスマートハウスや、世界各地で実証実験が進んでいる自動運転もIoTの一つです。また、農業では施肥や灌水の自動化、建設現場では建機をGPSとつなげることで省エネや工期の短縮などが実現しています。