全世界で爆発的な人気を博す任天堂の「あつまれ どうぶつの森」、ネクストフェイスブックの呼び声も高い中国テンセントの出資企業が作る「フォートナイト」。そして米マイクロソフト傘下のMojangスタジオの「マインクラフト」。子どもにも人気のこれらのゲームは、それぞれ全く異なるビジネスモデルを持つ。特集『コロナで崩壊寸前!どうなる!?エンタメ』(全17回)の#6では、3強ゲームを知ってゲームビジネスを学ぼう。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
実は20年前から“不変”!元祖コミュニケーションゲーム「あつ森」に時代が追い付いた
発売から1カ月で500万本を売り上げる世界新記録を出し、6週間で1341万本を販売。コロナ禍でのゲーム需要の爆発を代表する存在となった「あつまれ どうぶつの森(あつ森)」。ところが、20年前の「どうぶつの森」シリーズ第1作は全く売れなかった。しかし、20年かけてブラッシュアップしてきたノウハウはだてではない。今の人気を支えるのは、いわばどうぶつの森が“元祖”として20年かけて築き上げた、コミュニケーションを目的としたゲームのノウハウと技術だ。
実は2001年の初代どうぶつの森の企画は「仕事が忙しく帰宅時間が遅くて子どもの顔を見られない。一つのゲームを家族全員で遊ぶことで、顔を合わせられなくてもゲーム内でコミュニケーションできたら」という、あつ森の現ゼネラルプロデューサーの江口勝也氏の家庭事情から生まれたアイデアが基になったものだ。
ステイホームでリアルには会えない友達と、得点を競うでもなくただ楽しく過ごすというゲームシステムは、今では特に違和感はない。ところが、前述のように20年前に初代どうぶつの森が発売されたときは「こんなものはゲームではない」と大炎上。クリアも目的もないゲームは当時他に例がなかったからだ。発売直後は売り上げも振るわなかったが、当時主要な顧客ではなかった若いOLの間で話題となり、徐々に人気に火が付き、シリーズ化していった――という経緯がある。
「あつ森と似たようなコンセプトのゲームは過去にも幾つかあったが、いずれも成功しなかったし、今後二番煎じが出てきても恐らく勝ち目はないだろう」とゲームジャーナリストの小野憲史氏は言う。今回の世界的ヒットは、当初の市場の冷笑にも負けず地道にシリーズを続けてきたからこその、任天堂にしか成し得なかったことなのだ。
「あつ森にしかできないこと」の一つが、ゲーム内にふわっと出てくる“ガチの本物”だ。ゲーム内の博物館での化石の展示ルールは、実際の博物館での展示ルールにかなり忠実に作られている。チョウが飛ぶ映像のリアルさは昆虫研究者が感嘆するほどの精密なものだし、博物館内では床材によって足音が違うなどのディテールの凝り方はひたすらマニアックだ。
こうした本物志向に呼応してか、外の業界も進んであつ森に協力している。例えば、米メトロポリタン美術館は所蔵する40万点を超える美術品をあつ森内に登場させるための2次元コードを公式サイト上に用意し、プレーヤーが自由にゲーム内にダウンロードできるサービスを提供した。「マークジェイコブス」「ヴァレンティノ」などの高級ブランドも、自社の新作デザインをあつ森のプレーヤーに提供。このデザインを使って、仮想ファッションショーがあつ森内で開かれる、ということも起こった。
そんなあつ森だが、ビジネスモデルは極めて古典的だ。無料で遊べるという触れ込みでインストールすると、何をするにも追加で課金されるスマートフォンのソシャゲ(ソーシャルゲーム)とは対照的で、課金のタイミングはソフトの購入とインターネット経由で友達と遊ぶ場合に必要となるニンテンドースイッチオンラインへの加入、好みの動物を島に呼ぶときに使う1枚300円のamiiboカードくらいしかない。さらに言えば、見知らぬ人と一緒に遊んだり、知らない人を島に呼ぶことは、ネットの掲示板等で別途募るなどの手段を取らなければ、ゲーム内ではできない。いい意味でも悪い意味でも20年かけて完成された“保守的な箱庭”ゲームなのだ。
そして、今回未就学児から80代の高齢者まで広く受け入れられたあつ森だが、実はこれを大きく引き離すゲームがある。米エピックゲームズの「フォートナイト」だ。ゲームをやっていない人は知らないかもしれないが、実は、このゲーム、あつ森や他の任天堂のゲームよりも日本の小学生には人気があるのだ。