新型コロナウイルス感染拡大のため営業休止となっていた映画館が6月より再開。徐々に活気が戻りつつあるものの、感染対策のため、座席を平常時の50%に間引きしている。そもそも近年の映画業界を振り返ってみると、原作が人気の作品やアニメシリーズなど、いわゆる大作に資金が集中する状態が長らく続いていた。特集『コロナで崩壊寸前!どうなる!?エンタメ』(全17回)の#4では、コロナ禍で新しい映画の生まれる可能性を探った。(ダイヤモンド編集部 塙 花梨)
好調に“急ブレーキ”の映画業界「今夏は大作の嵐」
好調だった映画業界にも、新型コロナウイルスの脅威が襲い掛かった。映画館は、緊急事態宣言下でおよそ3カ月に及ぶ営業休止を余儀なくされ、日本の三大映画会社の一つである松竹では「5月の興行収入が前年比7.6%に落ち込んだ」。7.6%減ったのではなく、7.6%にまで減ったのである。
コロナ以前の映画業界は絶好調だった。昨年の日本映画の興行収入は過去最高の2611.8億円。観客動員も目標だった2億人に迫る約1億9000万人を記録。まさしく、コロナが冷や水を浴びせた格好だ。
そんな中、6月よりようやく映画館が再開。7月からは新作の上映も開始し、徐々に活気が戻りつつある。
足元でこそ、「名探偵コナン 緋色の弾丸」「るろうに剣心 最終章The Final」といった大作の公開が来年以降に延期されてしまい、小規模公開作品やスタジオジブリなど過去の作品の上映が中心となってはいる。
しかし、7月中旬以降はせきを切ったように、大作の公開が続く。「今日から俺は!!劇場版」(7月17日公開)や「コンフィデンスマンJP プリンセス編」(7月23日公開)に続き、8月7日には前作、前々作でそれぞれ50億円を超える興行収入を稼いだ、「ドラえもん」の劇場版シリーズの新作公開が控えている。洋画では、米ハリウッドメジャー配給会社の大作公開が数本予定されており、8月21日のディズニー「2分の1の魔法」を皮切りに、9月4日に「ムーラン」、9月18日にはクリストファー・ノーラン監督の「TENET テネット」が公開予定だ。
公開が延期された結果、上映のスケジュールが詰まり、夏から秋にかけて大作のオンパレードとなるのだ。
重くのしかかる「客席間引き」による上限
大作の上映が続けば、人々は映画館に戻ってくるのだろうか?第一のポイントとなるのは、とにもかくにも「コロナ対策」だろう。
映画館は、全国興行生活衛生同業組合連合会の定めたガイドラインに沿って、感染対策を実施。来場者と従業員のマスク着用や客席の間引きなどを徹底している。
さらに、映画館はもともと法律によって厳しい換気基準をクリアしているほか、上映中は場内で会話がなく、来場者が一定方向を向いていることなどから、比較的安全性は高いといわれている。
しかし、残念ながらそれは認知されていない。
GEM Partnersが全国に住む15~69歳の男女500人に実施したアンケート(5月23日実施)によれば、映画館が危ないと感じる理由として「換気が悪そう」との意見が多く上がった。映画関係者は「今年の観客動員数や興行収入が落ちることは間違いない。今後新作、大作の公開が始まっても、どのくらい客足が戻ってくるか未知数だ」と肩を落とす。
仮に客足が戻ってきたとしても、問題なのはコロナ対策を実施すれば、座席の間引き販売により稼働率が通常の40~50%になってしまうこと。当然だが、映画館は50%しか入らないことを想定して投資をしていないから、対策が長引けば収益に大打撃となる。
もう一つの問題が、作品への影響だ。長期的に座席数が50%にとどまる状況が続けば、興行的に強い作品と弱い作品の格差拡大が加速することも予想される。強い作品は上映回数の増加や上映期間の延長を主張し、劇場もそれを受け入れる。一方で、製作者の熱意が感じられ芸術性が高く玄人受けするような作品でも、興行的に弱いとみられてしまうものは嫌がられ、上演館数や期間が縮小される可能性がある。
このことは時計の針を逆回転させてしまうかもしれない。というのも実は、コロナの直前まで、日本の映画界はようやく「マーケティングに沿った大作志向」の一本足打法から脱却する萌芽を見つけていたからだ。ここで少し、日本の映画業界の構造について解説してみたい。